単糖・二糖・多糖の化学構造を知れば、血糖値スパイクを防ぐことができます。この記事ではグルコース、フルクトース、スクロース、デンプン、食物繊維の分子構造と代謝の違いを分かりやすく解説。賢い糖質選択で血糖値を安定させる方法が分かります。
単糖|最小単位の糖質
単糖は糖質の最小単位で、これ以上分解できない糖です。分子式がC6H12O6(炭素6個、水素12個、酸素6個)のものを六炭糖と呼び、栄養学的に最も重要です。単糖は消化の必要がなく、小腸から直接吸収されるため、摂取後すぐに血糖値を上昇させます。
グルコース(ブドウ糖)
グルコースは最も重要な単糖で、体内のエネルギー源として中心的な役割を果たします。脳は1日に約120gのグルコースを消費し、赤血球はグルコースのみをエネルギー源とします。血液中のグルコース濃度を血糖値と呼び、正常値は空腹時で70-100mg/dLです。摂取後15-30分で血糖値がピークに達するため、低血糖時の迅速なエネルギー補給に適していますが、急激な血糖値上昇はインスリンの過剰分泌を引き起こし、その後の低血糖や疲労感につながることがあります。
フルクトース(果糖)
フルクトースは果物やはちみつに多く含まれる単糖で、グルコースと同じC6H12O6の分子式を持ちますが、構造が異なります。グルコースが六員環(6角形の環構造)を形成するのに対し、フルクトースは五員環(5角形の環構造)を形成します。この構造の違いが、代謝経路の違いを生み出します。
フルクトースの最大の特徴は、インスリンを介さずに代謝されることです。小腸で吸収された後、約80%が肝臓に運ばれ、グルコースに変換されるか、直接エネルギーとして使われるか、中性脂肪として貯蔵されます。このため、フルクトースは血糖値をほとんど上昇させません(グリセミック指数GI値:19)。しかし、フルクトースの過剰摂取には注意が必要です。肝臓での代謝は制限がなく、大量に摂取すると中性脂肪の合成が促進され、脂肪肝のリスクが高まります。
二糖|2つの単糖が結合した糖質
二糖は2つの単糖がグリコシド結合によって結合した糖質です。グリコシド結合とは、単糖の1番目の炭素についている水酸基(OH基)と、もう1つの単糖の水酸基が脱水縮合(水分子が取れる反応)によって結合したものです。この結合には、α結合とβ結合の2種類があり、どちらの結合かによって消化酵素の作用が変わります。
スクロース(ショ糖)
スクロースは砂糖の主成分で、グルコースとフルクトースがα-1,2結合で結合した二糖です。分子式はC12H22O11で、単糖2つ分から水分子1つ分(H2O)が取れた形になっています。スクロースは小腸でスクラーゼという消化酵素によって、グルコースとフルクトースに分解されます。この分解は非常に速く、摂取後15-20分で吸収が始まります。スクロースのGI値は65で、グルコース(100)より低いものの、比較的速く血糖値を上昇させます。
ラクトース(乳糖)
ラクトースは牛乳や母乳に含まれる二糖で、グルコースとガラクトースがβ-1,4結合で結合しています。母乳には約7%、牛乳には約5%のラクトースが含まれています。ラクトースは小腸でラクターゼという消化酵素によって分解されますが、成人の約65%はラクターゼの活性が低下し、ラクトースを十分に消化できません。これを乳糖不耐症と呼びます。日本人では約80%が乳糖不耐症の傾向を持ち、牛乳を飲むと腹痛や下痢を起こすことがあります。
マルトース(麦芽糖)
マルトースは2つのグルコースがα-1,4結合で結合した二糖です。デンプンが消化される過程で生成され、麦芽、水飴、ビールなどに含まれます。マルトースは小腸でマルターゼという消化酵素によって2つのグルコースに分解されます。分解速度は非常に速く、摂取後すぐに血糖値を上昇させます。GI値は105で、グルコース(100)よりもわずかに高く、最も速く血糖値を上げる糖質の1つです。
多糖|数百から数千の単糖が結合した糖質
多糖は数百から数千の単糖が鎖状に結合した高分子の糖質です。分子量は数万から数百万に達し、水に溶けにくく、甘味はありません。多糖の種類は結合する単糖の種類と、グリコシド結合の様式(α結合かβ結合か)によって決まります。この結合様式の違いが、消化できるかどうかを決定します。
デンプン(アミロース・アミロペクチン)
デンプンは植物が光合成によって作る貯蔵多糖で、米、小麦、トウモロコシ、イモ類などに含まれます。デンプンは数百から数千のグルコースがα-1,4結合で直鎖状に結合したアミロースと、α-1,6結合による分岐を持つアミロペクチンの2種類から構成されます。一般的なデンプンはアミロース20-30%、アミロペクチン70-80%の比率です。
デンプンの消化は口腔から始まります。唾液に含まれるアミラーゼがデンプンを分解し、マルトースやデキストリンに変えます。これが「ご飯をよく噛むと甘くなる」理由です。胃では酸性環境でアミラーゼの働きが止まり、小腸で膵臓から分泌される膵アミラーゼが再び作用します。最終的に小腸上皮のマルターゼによってグルコースに分解され、吸収されます。デンプンの消化吸収には1-2時間かかるため、血糖値の上昇は緩やかです。白米のGI値は73、玄米は55、さつまいもは55程度です。
グリコーゲン
グリコーゲンは動物の体内でグルコースを貯蔵する多糖で、構造はアミロペクチンに似ていますが、より分岐が多いのが特徴です。人体では肝臓に約100g、筋肉に約400g、合計約500g(約2,000kcal分)のグリコーゲンが貯蔵されています。肝臓のグリコーゲンは血糖値の維持に使われ、食後4-6時間で分解されてグルコースとして血液中に放出されます。筋肉のグリコーゲンは筋肉自身のエネルギー源として使われ、血液中には放出されません。
食物繊維(セルロース・ヘミセルロース・ペクチンなど)
食物繊維は人間の消化酵素では分解できない多糖の総称です。最も代表的なのがセルロースで、植物細胞壁の主成分です。セルロースは数千から数万のグルコースがβ-1,4結合で結合しており、この結合を切断する酵素(セルラーゼ)を人間は持っていません。デンプンとセルロースは、どちらもグルコースが鎖状に結合した多糖ですが、結合様式が違います。デンプンはα-1,4結合、セルロースはβ-1,4結合です。この違いにより、デンプンは消化できますが、セルロースは消化できません。
食物繊維は消化されませんが、腸内環境において重要な役割を果たします。水溶性食物繊維(ペクチン、グアーガム、β-グルカンなど)は水に溶けてゲル状になり、糖質の吸収を緩やかにして血糖値の急上昇を防ぎます。不溶性食物繊維(セルロース、ヘミセルロースなど)は便の量を増やし、腸の蠕動運動を促進します。また、食物繊維は大腸で腸内細菌によって発酵され、短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)を産生します。1日の食物繊維推奨摂取量は成人男性21g以上、女性18g以上です。
グリコシド結合|α結合とβ結合の違い
グリコシド結合には、α結合とβ結合の2種類があります。これは単糖の1番目の炭素についている水酸基(OH基)の向きによって決まります。α結合では水酸基が環の下側を向き、β結合では上側を向きます。この立体構造のわずかな違いが、消化酵素による認識を大きく変えます。人間の消化酵素は、α結合を切断することができますが、β結合は切断できません。このため、α-1,4結合で構成されるデンプンは消化できますが、β-1,4結合で構成されるセルロースは消化できません。どちらもグルコースの鎖ですが、結合の向きが違うだけで、栄養価がまったく異なります。
消化吸収速度と血糖値への影響
糖質の化学構造は、消化にかかる時間を決定し、それが血糖値の上昇パターンに直結します。単糖は消化の必要がなく、摂取後15-30分で血糖値がピークに達します。二糖は1段階の消化が必要で、30-45分でピークに達します。多糖は複数段階の消化が必要で、1-2時間かけて緩やかに血糖値を上昇させます。
血糖値の急激な上昇(血糖値スパイク)は、膵臓からインスリンの過剰分泌を引き起こします。インスリンは血液中のグルコースを細胞に取り込ませ、血糖値を下げるホルモンです。しかし、インスリンが過剰に分泌されると、血糖値が正常値以下に下がり(反応性低血糖)、疲労感、集中力低下、眠気、イライラなどの症状が現れます。血糖値スパイクを繰り返すと、インスリン抵抗性が生じ、膵臓のβ細胞が疲弊します。これが2型糖尿病の発症メカニズムです。
グリセミック指数(GI)とグリセミック負荷(GL)
グリセミック指数(GI)は、食品を摂取した後の血糖値の上昇度を示す指標です。グルコース50gを摂取したときの血糖上昇を100として、各食品50gの糖質を摂取したときの血糖上昇を相対値で表します。GI値70以上を高GI食品、56-69を中GI食品、55以下を低GI食品と分類します。主な食品のGI値は、グルコース100、マルトース105、スクロース65、ラクトース46、フルクトース19です。多糖では、白米73、玄米55、全粒粉パン74、白パン95、さつまいも55、じゃがいも90です。
しかし、GI値だけでは不十分です。スイカはGI値72と高めですが、スイカ100gに含まれる糖質はわずか約9gです。そこで、GI値に糖質量を掛けたグリセミック負荷(GL)という指標が開発されました。GL = (GI値 × 糖質量g) ÷ 100で計算され、GL10以下を低GL、11-19を中GL、20以上を高GLと分類します。スイカのGLは約6で、実際の血糖値への影響は小さいことが分かります。
賢い糖質の選び方
糖質の化学構造を理解すれば、日常生活での糖質選択が変わります。基本原則は「消化吸収が緩やかな多糖を主体とし、単糖や二糖を控える」ことです。具体的には、精製されていない全粒穀物、豆類、野菜を主食・副菜とし、砂糖や果糖ブドウ糖液糖を含む加工食品や清涼飲料水を避けることです。
主食は白米より玄米、白パンより全粒粉パン、うどんより蕎麦がおすすめです。これらは食物繊維が豊富で、GI値が低く、血糖値の上昇が緩やかです。白米を食べる場合は、冷やして難消化性デンプンを増やすか、もち麦や雑穀を混ぜることで食物繊維を補えます。間食では、砂糖を使った菓子より、ナッツ、チーズ、ゆで卵などのタンパク質や脂質を含む食品を選びましょう。
果物は食物繊維とビタミンを含むため適度な摂取は推奨されますが、ジュースにすると食物繊維が失われ、フルクトースが急速に吸収されるため避けるべきです。りんご1個(約150g、糖質20g)は健康的ですが、りんごジュース200ml(糖質24g)は血糖値を急上昇させます。
食事のタイミングと順序
糖質の化学構造に加えて、食事のタイミングと順序も血糖値に影響します。空腹時に糖質だけを摂取すると、血糖値が急上昇します。しかし、食物繊維、タンパク質、脂質を先に摂取してから糖質を食べると、消化吸収が緩やかになり、血糖値の上昇が抑えられます。「ベジファースト」という食べ方は、野菜を最初に食べることで、水溶性食物繊維が胃腸内でゲル状になり、後から入ってくる糖質の吸収を遅らせます。研究では、野菜→タンパク質→糖質の順で食べると、糖質から食べた場合に比べて食後血糖値のピークが20-30%低下することが示されています。
また、食事の時間帯も重要です。朝は体内時計の影響でインスリン感受性が高く、糖質の代謝が良好です。一方、夜は代謝が低下するため、同じ量の糖質でも血糖値が上がりやすくなります。夕食の糖質量を朝食・昼食より少なくすることで、血糖値の日内変動を抑えられます。
よくある質問
Q1. 果物の糖質は体に悪いのですか?
A. 果物に含まれるフルクトースは、精製された果糖ブドウ糖液糖とは異なります。果物は食物繊維、ビタミン、ミネラル、ポリフェノールを豊富に含み、これらが糖質の吸収を緩やかにします。1日200g程度(りんご1個、みかん2個など)の果物摂取は健康に有益です。ただし、果物ジュースは食物繊維が失われているため、血糖値を急上昇させるので避けましょう。
Q2. 冷やしたご飯とおにぎりは同じですか?
A. 冷やしたご飯とおにぎりは、難消化性デンプンの量が異なります。ご飯を炊いた後、4-5℃で数時間冷蔵すると、デンプンが再結晶化(老化)して難消化性デンプンが増えます。コンビニのおにぎりは冷蔵保存されているため、家で炊いた温かいご飯より難消化性デンプンが多く、血糖値の上昇が緩やかです。温め直すと一部が再び糊化しますが、完全には戻らないため、温めても難消化性デンプンは残ります。
Q3. 人工甘味料は糖質の代わりになりますか?
A. 人工甘味料(アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムKなど)は、血糖値を上昇させず、カロリーもほぼゼロです。しかし、甘味を感じることで脳が「糖質が入ってくる」と認識し、インスリン分泌の準備をします(頭相インスリン分泌)。実際に糖質が来ないと、低血糖感や食欲増進が起こる可能性があります。糖アルコール(エリスリトール、キシリトールなど)は、血糖値への影響が小さく、比較的安全な代替甘味料です。
Q4. 玄米と白米、栄養価以外に血糖値への影響も違いますか?
A. はい、大きく違います。玄米のGI値は55、白米は73です。玄米には糠層と胚芽が残っており、食物繊維が白米の約6倍(100gあたり3g vs 0.5g)含まれます。この食物繊維が糖質の吸収を遅らせ、血糖値の上昇を緩やかにします。また、玄米はビタミンB群、マグネシウム、亜鉛などの微量栄養素も豊富で、糖質代謝をサポートします。白米150g(糖質55g)と玄米150g(糖質51g)を比べると、食後1時間の血糖値上昇は白米で40-50mg/dL、玄米で25-35mg/dLと、約30%の差があります。
Q5. 糖質制限食は健康に良いのですか?
A. 糖質制限食(1日の糖質摂取量を50-130gに制限)は、短期的には体重減少や血糖値改善に効果があります。しかし、長期的な安全性については議論があります。脳は1日約120gのグルコースを必要とし、極端な糖質制限は認知機能低下、疲労、便秘のリスクがあります。推奨されるのは、精製糖質を減らし、全粒穀物、豆類、野菜から複合糖質(多糖)を適度に摂取する「質の良い糖質」を選ぶアプローチです。日本人の食事摂取基準では、総エネルギーの50-65%を糖質から摂取することが推奨されています。
次に読むべき記事
分子栄養学で理解を深める
- 分子022 – グルコースの吸収:GLUT輸送体ファミリー: 単糖がどのように細胞に取り込まれるか
- 分子023 – 解糖系①:グルコースからピルビン酸へ: グルコースがエネルギーに変わる最初のステップ
- 分子027 – TCAサイクル(クエン酸回路):エネルギー産生の中心: 糖質が完全に代謝されるメカニズム
- 分子032 – インスリンシグナリング:血糖調節の分子機構: インスリンがどのように血糖値を下げるか
調理科学で実践する
- 調理021 – ご飯の炊き方と栄養: 炊き方で変わる糖質の吸収速度
- 調理022 – パンの選び方: 全粒粉パンと白パンの栄養価の違い
- 調理023 – 麺類の茹で方: 難消化性デンプンを増やす調理法
まとめ
糖質は「単糖」「二糖」「多糖」の3種類に分類され、分子の大きさが違います。単糖は最小サイズで消化不要なため、食べて15-30分で血糖値が急上昇します。二糖は2つの単糖がくっついたもので、1段階の消化が必要なため30-45分かかります。多糖は数百から数千の単糖が鎖状につながったもので、複数段階の消化が必要なため1-2時間かけてゆっくり血糖値を上げます。血糖値を安定させるには、ゆっくり消化される多糖(ご飯やパンなどのデンプン)を選ぶことが大切です。
日常生活では、白米より玄米、白パンより全粒粉パン、うどんより蕎麦を選びましょう。これらは食物繊維が豊富で、血糖値がゆっくり上がります。砂糖やジュースに含まれる単糖・二糖は血糖値を急上昇させるため控えめに。また、食べる順番も重要です。野菜を最初に食べ、次にお肉や魚、最後にご飯の順番にすると、食後の血糖値上昇が20-30%も抑えられます。糖質だけでなく、タンパク質、脂質、食物繊維をバランスよく組み合わせることで、健康的に血糖値をコントロールできます。
参考文献
- ヴォート基礎生化学 第5版 – 東京化学同人
- 日本人の食事摂取基準(2025年版)- 厚生労働省
- 日本食品標準成分表2020年版(八訂)- 文部科学省
