「ビタミンDは日光を浴びると体内で作られる」という話を聞いたことがあるでしょう。しかし、具体的に太陽の光がどのようにしてビタミンDに変わるのか、そしてそれがどのように体の中で働くのかを知っている人は少ないかもしれません。実は、ビタミンDは「太陽のビタミン」とも呼ばれ、私たちの皮膚で紫外線によって合成される、非常にユニークな栄養素なのです。
1日わずか15-30分の日光浴で、皮膚は約1,000-2,000IU(25-50μg)のビタミンDを作り出すことができます。太陽光に含まれる紫外線B波(UVB)が、皮膚の中の「7-デヒドロコレステロール」という物質をビタミンD3に変換し、それが肝臓と腎臓で段階的に活性化されて、最終的に「1,25-ジヒドロキシビタミンD」という強力なホルモンになります。このホルモンは、カルシウムの吸収を促進して骨を丈夫にするだけでなく、免疫システムを調節したり、筋力を維持したりと、全身で多彩な役割を果たしています。
この記事では、太陽光がどのようにビタミンDを作り出すのか、その合成過程と活性化の仕組み、そして季節、緯度、肌の色、日焼け止めなどがビタミンD合成にどう影響するのかを、分子レベルから詳しく解説します。
ビタミンDとは何か
ビタミンDの2つの形
ビタミンDには、主に2つの形があります。
| 種類 | 化学名 | 供給源 |
|---|---|---|
| ビタミンD2 | エルゴカルシフェロール | 植物性食品(きのこ類) 紫外線照射されたきのこ |
| ビタミンD3 | コレカルシフェロール | 動物性食品(魚、卵) 皮膚での合成 |
人間の体内で合成されるのは、ビタミンD3です。ビタミンD2とD3は、構造が少し異なりますが、体内での働きはほぼ同じです。ただし、ビタミンD3の方が血中濃度を高める効果が強いとされています。
ビタミンか、ホルモンか
「ビタミンD」という名前ですが、実は厳密にはビタミンではありません。ビタミンとは、「体内で合成できないため、食事から摂取しなければならない有機化合物」と定義されます。しかし、ビタミンDは、紫外線を浴びれば皮膚で十分な量が合成できるため、本来の意味でのビタミンではないのです。
むしろ、ビタミンDは「ホルモン」に近い性質を持っています。体内で合成され、血液を通じて全身に運ばれ、特定の受容体に結合して遺伝子の発現を調節するからです。そのため、ビタミンDは「脂溶性ビタミン」でありながら「ステロイドホルモン」でもあるという、二重の性格を持つユニークな物質なのです。
ビタミンDの推奨摂取量
日本人の食事摂取基準(2025年版)では、ビタミンDの目安量は以下の通りです。
| 年齢・性別 | 目安量(μg/日) |
|---|---|
| 成人男性(18-64歳) | 8.5 |
| 成人女性(18-64歳) | 8.5 |
| 妊婦(付加量) | +0 |
| 授乳婦(付加量) | +0 |
| 高齢者(65歳以上) | 8.5 |
換算:1μg = 40IU(国際単位)、つまり8.5μg = 340IU
ただし、これは「日光浴をほとんどしない場合」の目安量です。適度に日光を浴びている人は、食事からの摂取量がこれより少なくても十分です。
皮膚でのビタミンD合成:ステップ1
7-デヒドロコレステロール:出発物質
ビタミンDの合成は、皮膚の表皮(特に基底層と有棘層)に存在する「7-デヒドロコレステロール(7-DHC)」から始まります。7-DHCは、コレステロールの前駆体で、皮膚の細胞膜に豊富に存在しています。
7-DHCの濃度は、皮膚の部位によって異なります。
- 顔や手:濃度が高い
- 腕や脚:中程度
- 体幹:比較的低い
また、7-DHCの濃度は加齢とともに減少します。70歳の人の皮膚の7-DHC濃度は、20歳の人の約25%程度と言われています。これが、高齢者でビタミンD不足が多い理由の1つです。
紫外線B波(UVB)の作用
太陽光に含まれる紫外線には、UVA(波長320-400nm)、UVB(波長280-320nm)、UVC(波長200-280nm)の3種類があります。このうち、ビタミンD合成に必要なのは「UVB」です。
UVBが7-DHCに当たると、化学反応が起こります。具体的には、7-DHCの「B環」が開裂し、「プレビタミンD3(pre-vitamin D3)」という不安定な中間体が生成されます。
反応:7-デヒドロコレステロール + UVB → プレビタミンD3
この反応は、数秒から数分で起こります。つまり、日光を浴びた瞬間から、皮膚でビタミンDの合成が始まるのです。
体温による異性化
プレビタミンD3は、非常に不安定な構造をしています。しかし、体温(約37℃)によって、徐々に「ビタミンD3(コレカルシフェロール)」に異性化(構造が変化)します。
反応:プレビタミンD3 →(体温、数時間〜数日)→ ビタミンD3
この異性化は、数時間から2-3日かけてゆっくりと進みます。つまり、日光を浴びた直後にすぐビタミンD3ができるわけではなく、時間をかけて徐々に変化していくのです。
皮膚からの吸収
ビタミンD3は脂溶性なので、皮膚の細胞膜を通過して、真皮の毛細血管に入ります。血液中では、「ビタミンD結合タンパク質(DBP、Vitamin D Binding Protein)」に結合して、肝臓に運ばれます。
どれくらいの日光浴が必要か
合成量の目安
適度な日光浴で、皮膚が合成できるビタミンD3の量は以下の通りです。
| 条件 | 時間 | 合成量 |
|---|---|---|
| 夏の正午、顔と腕を露出 | 15分 | 約1,000IU(25μg) |
| 夏の正午、水着で全身露出 | 15分 | 約10,000-20,000IU(250-500μg) |
| 冬の正午、顔と手のみ露出 | 30-60分 | 約1,000IU(25μg) |
つまり、夏なら1日15分程度、冬なら30-60分程度の日光浴で、1日の目安量(340IU)を十分に満たすことができます。
季節による違い
ビタミンD合成は、季節によって大きく変わります。これは、太陽の高度(太陽が空のどの高さにあるか)によって、地表に届くUVBの量が変わるからです。
夏(6-8月):太陽高度が高く、UVBが豊富。ビタミンD合成が最も活発です。
春・秋(3-5月、9-11月):太陽高度が中程度。ビタミンD合成は可能ですが、夏より時間がかかります。
冬(12-2月):太陽高度が低く、UVBが少ない。特に北日本(北緯40度以上)では、冬の間、ビタミンD合成がほとんどできません。
日本の主要都市の緯度:
- 札幌:北緯43度
- 東京:北緯35度
- 大阪:北緯34度
- 福岡:北緯33度
- 那覇:北緯26度
札幌では、11月から2月までの約4ヶ月間、正午でもUVBがほとんど地表に届かず、ビタミンD合成ができません。東京でも、12月と1月はビタミンD合成が非常に困難です。
緯度による違い
一般的に、北緯(または南緯)37度以上の地域では、冬の間(11月〜2月)、正午でもUVBが不足し、ビタミンD合成が困難になります。北緯37度は、日本では新潟県や福島県の辺りです。
逆に、赤道に近い地域(北緯25度以下)では、1年中豊富なUVBが得られ、ビタミンD不足になりにくいとされています。
肌の色の影響
肌の色(メラニン色素の量)は、ビタミンD合成に大きく影響します。メラニン色素は、紫外線を吸収してDNAを保護する役割がありますが、同時にUVBを遮断するため、ビタミンD合成を妨げます。
| 肌のタイプ | ビタミンD合成に必要な時間 |
|---|---|
| 色白の肌(メラニン少ない) | 15分 |
| 普通の肌 | 20-30分 |
| 色黒の肌(メラニン多い) | 60-90分 |
つまり、色黒の肌の人は、色白の肌の人の3-6倍も長い時間、日光を浴びる必要があります。これは、メラニン色素がUVBの約95-99%を吸収してしまうからです。
アフリカ系の人々が赤道直下の強い日差しの地域に住んでいるのは、メラニン色素が多いことで皮膚がんを防ぎつつ、強いUVBで十分なビタミンDを合成できるからです。逆に、北欧など日照時間が短い地域に住む人々の肌が白いのは、少ないUVBでも効率的にビタミンDを合成するためと考えられています。
日焼け止めの影響
日焼け止め(サンスクリーン)は、UVBを遮断するため、ビタミンD合成を大幅に減少させます。
| SPF値 | UVB遮断率 | ビタミンD合成への影響 |
|---|---|---|
| SPF 15 | 約93% | 合成量が約1/15に減少 |
| SPF 30 | 約97% | 合成量が約1/30に減少 |
| SPF 50 | 約98% | 合成量が約1/50に減少 |
つまり、SPF 30の日焼け止めを塗ると、ビタミンD合成は約97%も抑制されます。ただし、実際には、多くの人が日焼け止めを十分な量塗っていないため(推奨量の25-50%程度)、完全には遮断されません。
窓ガラスの影響
窓ガラスは、UVBをほぼ完全に遮断します。そのため、窓越しに日光を浴びても、ビタミンDは合成されません。室内で日光浴をする場合は、窓を開けるか、屋外に出る必要があります。
肝臓での活性化:ステップ2
25-水酸化反応
皮膚で合成されたビタミンD3、または食事から吸収されたビタミンD2/D3は、血液を通じて肝臓に運ばれます。肝臓では、「25-ヒドロキシラーゼ(25-hydroxylase、別名CYP2R1)」という酵素が、ビタミンDの25位の炭素に水酸基(-OH)を付加します。
反応:ビタミンD3 →(肝臓、25-ヒドロキシラーゼ)→ 25-ヒドロキシビタミンD3(25(OH)D3)
この25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)は、血液中で最も多く存在するビタミンDの形態で、半減期は約2-3週間と長いため、体内のビタミンD貯蔵量を反映します。そのため、血液検査では、この25(OH)Dの濃度を測定することで、ビタミンDの栄養状態を評価します。
血中25(OH)D濃度の目安
| 血中25(OH)D濃度 | 評価 |
|---|---|
| <10 ng/mL | 重度の欠乏(くる病・骨軟化症のリスク) |
| 10-20 ng/mL | 欠乏(骨の健康に悪影響) |
| 20-30 ng/mL | 不足(一部の専門家は30 ng/mL以上を推奨) |
| 30-50 ng/mL | 適正 |
| 50-100 ng/mL | 十分(問題なし) |
| >100 ng/mL | 過剰(中毒のリスク) |
日本人の約80%が、血中25(OH)D濃度が20 ng/mL未満で、「欠乏」または「不足」の状態にあると報告されています。特に、冬季や日照時間が短い地域では、不足が顕著です。
腎臓での最終活性化:ステップ3
1α-水酸化反応
25(OH)Dは、まだ生理活性が弱い「貯蔵型」です。これを「活性型」に変換するのが、腎臓での最後のステップです。
腎臓の近位尿細管細胞には、「1α-ヒドロキシラーゼ(1α-hydroxylase、別名CYP27B1)」という酵素があります。この酵素が、25(OH)Dの1位の炭素に水酸基を付加し、「1,25-ジヒドロキシビタミンD(1,25(OH)₂D)」を生成します。
反応:25(OH)D3 →(腎臓、1α-ヒドロキシラーゼ)→ 1,25(OH)₂D3(カルシトリオール)
この1,25(OH)₂Dは、「活性型ビタミンD」または「カルシトリオール(calcitriol)」と呼ばれ、ビタミンDの最も強力な形態です。1,25(OH)₂Dは、25(OH)Dの100-1,000倍もの生理活性を持っています。
1α-ヒドロキシラーゼの調節
1α-ヒドロキシラーゼの活性は、体内のカルシウムとリンのレベルによって厳密に調節されています。
- カルシウムが低い → 副甲状腺ホルモン(PTH)↑ → 1α-ヒドロキシラーゼ↑ → 1,25(OH)₂D↑ → カルシウム吸収↑
- リンが低い → FGF23(線維芽細胞増殖因子23)↓ → 1α-ヒドロキシラーゼ↑ → 1,25(OH)₂D↑ → リン吸収↑
- カルシウムが高い → PTH↓ → 1α-ヒドロキシラーゼ↓ → 1,25(OH)₂D↓
つまり、体は「カルシウムが足りないときに、ビタミンDを活性化して、カルシウムの吸収を増やす」という巧妙な調節を行っているのです。
活性型ビタミンDの半減期
1,25(OH)₂Dの血中半減期は、わずか4-6時間と非常に短いです。これは、25(OH)Dの半減期(2-3週間)と比べて、100倍以上も短いことになります。
なぜ半減期が短いのでしょうか。それは、1,25(OH)₂Dは非常に強力なホルモンであり、常に厳密に調節する必要があるからです。長時間血液中に留まると、カルシウムが過剰に吸収され、高カルシウム血症を引き起こすリスクがあります。
活性型ビタミンDの働き
ビタミンD受容体(VDR)
1,25(OH)₂Dは、細胞の核内にある「ビタミンD受容体(Vitamin D Receptor、VDR)」に結合します。VDRは、ステロイドホルモン受容体ファミリーに属する転写因子で、DNAに結合して遺伝子の発現を調節します。
VDRは、ほぼすべての細胞に存在しますが、特に以下の組織に多く発現しています。
- 小腸(カルシウム吸収)
- 骨(骨形成と骨吸収)
- 腎臓(カルシウムとリンの再吸収)
- 副甲状腺(PTH分泌の調節)
- 免疫細胞(T細胞、B細胞、マクロファージ)
- 筋肉(筋力維持)
小腸でのカルシウム吸収促進
1,25(OH)₂Dの最も重要な働きは、小腸でカルシウムとリンの吸収を促進することです。
メカニズム:
- 1,25(OH)₂DがVDRに結合する
- VDRがRXR(レチノイドX受容体)とヘテロダイマー(2つのタンパク質の複合体)を形成する
- VDR-RXR複合体が、DNA上の「ビタミンD応答配列(VDRE)」に結合する
- 以下の遺伝子の発現が増加する:
- カルビンジン-D9k(calbindin-D9k):小腸の上皮細胞内でカルシウムを運ぶタンパク質
- TRPV6(トランジェント受容体ポテンシャル・バニロイド6):小腸の管腔側膜でカルシウムを取り込むチャネル
- PMCAとNCX1:小腸の血液側膜でカルシウムを放出するポンプ
- NaPi-IIb:リンを吸収するトランスポーター
- 結果として、カルシウムの吸収率が3-4倍、リンの吸収率が2-3倍に増加する
ビタミンDが不足すると、食事から摂取したカルシウムの10-15%しか吸収されませんが、ビタミンDが十分だと30-40%が吸収されます。
骨での作用
1,25(OH)₂Dは、骨では複雑な作用を示します。
骨形成の促進:1,25(OH)₂Dは、骨芽細胞(骨を作る細胞)の分化と活動を促進します。また、コラーゲンやオステオカルシンなどの骨基質タンパク質の合成を増加させます。
骨吸収の促進:一方で、1,25(OH)₂Dは、破骨細胞(骨を壊す細胞)の活動も促進します。これは一見矛盾しているようですが、血液中のカルシウムが不足しているとき、骨から一時的にカルシウムを動員して血中濃度を保つためです。
つまり、ビタミンDは「骨の健康」だけでなく、「血中カルシウム濃度の維持」という全身のホメオスタシス(恒常性)にも関与しているのです。
腎臓でのカルシウム再吸収
1,25(OH)₂Dは、腎臓の遠位尿細管でカルシウムとリンの再吸収を促進します。通常、尿中に排泄されようとするカルシウムの約98-99%が再吸収されますが、ビタミンDが不足すると、この再吸収が低下し、カルシウムが尿中に失われます。
副甲状腺ホルモン(PTH)の抑制
1,25(OH)₂Dは、副甲状腺でPTHの分泌を抑制します。PTHは、血中カルシウムを上昇させるホルモンですが、過剰になると骨からカルシウムが過剰に溶出し、骨粗鬆症の原因になります。ビタミンDは、PTHを適度に抑制することで、骨の健康を守ります。
免疫調節作用
1,25(OH)₂Dは、免疫系にも重要な作用を持っています。
自然免疫の強化:マクロファージや好中球のVDRに結合し、「カテリシジン」や「ディフェンシン」などの抗菌ペプチドの産生を促進します。これらのペプチドは、細菌やウイルスを直接攻撃します。
獲得免疫の調節:T細胞の過剰な活性化を抑制し、炎症性サイトカイン(IL-17、IFN-γ)の産生を減少させます。これにより、自己免疫疾患(関節リウマチ、多発性硬化症、1型糖尿病など)のリスクが低下すると考えられています。
筋力維持
1,25(OH)₂Dは、筋肉細胞のVDRに結合し、筋タンパク質の合成を促進します。ビタミンD不足では、筋力低下、筋肉痛、バランス障害が起こり、転倒のリスクが増加します。特に高齢者では、ビタミンD不足が転倒と骨折の主要な原因の1つです。
ビタミンDの不足と過剰
ビタミンD欠乏症
くる病(子供):成長期の子供でビタミンDが不足すると、骨の石灰化が不十分になり、骨が柔らかくなります。症状には、O脚、X脚、背骨の湾曲、頭蓋骨の軟化などがあります。
骨軟化症(成人):成人でビタミンDが不足すると、既存の骨の石灰化が不十分になり、骨痛、筋力低下、歩行困難が起こります。
骨粗鬆症:長期的なビタミンD不足は、骨密度の低下を引き起こし、骨折のリスクが高まります。
その他:筋力低下、転倒、免疫力低下、感染症(特に呼吸器感染症)、うつ症状、認知機能低下などが報告されています。
ビタミンD過剰症
ビタミンDは脂溶性なので、過剰摂取すると体内に蓄積し、中毒を引き起こす可能性があります。ただし、日光浴によるビタミンD過剰症は起こりません。皮膚でプレビタミンD3が過剰に生成されると、UVBによって不活性な物質(ルミステロール、タキステロール)に変換されるためです。
過剰症は、主にサプリメントの過剰摂取によって起こります。
症状:高カルシウム血症(血中カルシウム濃度の上昇)により、吐き気、嘔吐、便秘、脱水、頻尿、腎結石、腎機能障害、不整脈などが起こります。
耐容上限量:日本人の食事摂取基準では、ビタミンDの耐容上限量は成人で100μg/日(4,000IU/日)です。血中25(OH)D濃度が150 ng/mL以上になると、中毒のリスクが高まります。
よくある質問
曇りの日でもビタミンDは合成されますか?
はい、曇りの日でもビタミンDは合成されます。雲はUVBの約50%を通過させるため、晴れの日の約半分のビタミンDが作られます。ただし、雨の日や厚い雲に覆われた日は、UVBがほとんど届かず、合成量は大幅に減少します。
サングラスや帽子はビタミンD合成に影響しますか?
顔だけを覆うサングラスや帽子は、ビタミンD合成にほとんど影響しません。なぜなら、ビタミンDは皮膚全体で合成され、特に腕や脚の露出面積が大きいからです。ただし、全身を覆う衣服を着ている場合は、合成量が大幅に減少します。
日焼けサロンでビタミンDは作られますか?
多くの日焼けサロンは、UVA(長波長紫外線)を主に使用しているため、ビタミンDはほとんど合成されません。ビタミンD合成に必要なのはUVBです。ただし、一部の日焼けサロンではUVBも照射しているため、その場合はビタミンDが合成されます。しかし、日焼けサロンの使用は皮膚がんのリスクを高めるため、ビタミンD補給の手段としては推奨されません。
ビタミンDサプリメントは効果がありますか?
はい、ビタミンDサプリメントは効果的です。特に、日光浴が困難な人(室内で過ごすことが多い人、日焼け止めを常用する人、高齢者、色黒の肌の人、北日本在住者)には推奨されます。ビタミンD3(コレカルシフェロール)のサプリメントは、ビタミンD2(エルゴカルシフェロール)より血中濃度を高める効果が強いとされています。1日1,000-2,000IU(25-50μg)の補給が一般的です。
食事だけでビタミンDを十分に摂取できますか?
食事だけでビタミンDを十分に摂取するのは困難です。ビタミンDが豊富な食品は限られており(サケ、サンマ、きくらげ、卵黄など)、1日の目安量(8.5μg=340IU)を食事だけで満たすには、サケを毎日約50g食べる必要があります。そのため、適度な日光浴とバランスの良い食事を組み合わせることが推奨されます。
まとめ
ビタミンDは皮膚で紫外線B波により7-デヒドロコレステロールからプレビタミンD3が生成され、体温で数時間から数日かけてビタミンD3に異性化されます。1日15-30分の日光浴で約1,000-2,000IUが合成されますが、季節、緯度、肌の色、日焼け止めが大きく影響します。北日本では冬の4ヶ月間はUVBが不足してほとんど合成できず、色黒の肌では色白の3-6倍の時間が必要で、SPF30の日焼け止めは合成量を97%抑制します。皮膚で作られたビタミンD3は肝臓で25-ヒドロキシラーゼにより25-ヒドロキシビタミンDに変換され、これが血中濃度の指標となります。
さらに腎臓で1α-ヒドロキシラーゼにより1,25-ジヒドロキシビタミンDという活性型ホルモンに変換され、この活性化は副甲状腺ホルモンやFGF23により血中カルシウム濃度に応じて調節されます。活性型ビタミンDはビタミンD受容体に結合して遺伝子発現を調節し、小腸でカルシウムの吸収率を10-15%から30-40%へと3-4倍に高め、骨の形成と維持、腎臓でのカルシウム再吸収、副甲状腺ホルモンの抑制、免疫調節、筋力維持など全身で多彩な役割を果たします。日本人の約80%が血中25-ヒドロキシビタミンD濃度20ng/mL未満で不足状態にあり、不足はくる病、骨軟化症、骨粗鬆症、筋力低下、免疫力低下の原因となります。適度な日光浴と食事の組み合わせが重要で、日光浴が困難な場合はサプリメント(1日1,000-2,000IU)が推奨されます。
次に読むと理解が深まる記事
- 消化と吸収の仕組み – カルシウムが小腸で吸収される過程
参考文献
- 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2025年版)
- Holick MF. Vitamin D deficiency. N Engl J Med, 2007
- Bikle DD. Vitamin D metabolism, mechanism of action, and clinical applications. Chem Biol, 2014
- Lips P, et al. Worldwide status of vitamin D nutrition. J Steroid Biochem Mol Biol, 2010
