食材の葉酸が活性型になるまで|吸収から代謝の全経路

食事の葉酸が活性型になるまで|吸収から代謝の全経路

「葉酸を摂りましょう」とよく言われますが、食品に含まれる葉酸が、そのまま体内で働くわけではありません。食事から摂取した葉酸は、消化管で分解され、小腸で吸収され、肝臓で代謝されて、初めて「活性型」になります。そして、この活性型の葉酸が、DNAの合成やアミノ酸の代謝に使われるのです。

興味深いことに、「天然の食品に含まれる葉酸」と「サプリメントの葉酸」は、化学構造が異なります。天然型は「ポリグルタミン酸型」で、複数のグルタミン酸が結合しています。一方、サプリメントの葉酸は「モノグルタミン酸型」で、1つのグルタミン酸しか持ちません。このため、吸収率が大きく異なるのです。

さらに、体内で葉酸を活性化するには、「MTHFR(メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素)」という酵素が必要です。しかし、日本人の約15-20%は、この酵素の働きが弱い「遺伝子多型」を持っており、葉酸をうまく活性化できません。この記事では、食事の葉酸が体内でどのように変化するのか、なぜサプリメントの方が吸収率が高いのか、遺伝子多型とは何なのかを、詳しく解説します。

食品中の葉酸の形態

ポリグルタミン酸型葉酸

天然の食品(野菜、レバー、豆類など)に含まれる葉酸は、ほとんどが「ポリグルタミン酸型(Polyglutamate form)」です。これは、葉酸の基本構造に、2-7個のグルタミン酸が鎖のように結合したものです。

化学式(例):
プテロイル-ポリグルタミン酸(Pteroyl-polyglutamate)

グルタミン酸が多いほど、分子が大きくなり、水に溶けやすくなります。これにより、植物の細胞内で安定して存在できます。

なぜポリグルタミン酸型なのか

植物や動物の細胞内では、葉酸は「補酵素」として働きます。補酵素は、酵素と結合して反応を助けますが、すぐに離れてしまうと効率が悪くなります。そこで、グルタミン酸を複数つけることで、分子を大きくし、細胞内に留めておくのです。

消化管での分解

グルタミン酸カルボキシペプチダーゼの働き

食品として摂取されたポリグルタミン酸型葉酸は、小腸の「刷子縁(ブラシのような微細な突起)」で、「グルタミン酸カルボキシペプチダーゼII(Glutamate carboxypeptidase II, GCPII)」という酵素によって、グルタミン酸が1つずつ切り離されます。

反応:
ポリグルタミン酸型葉酸 → モノグルタミン酸型葉酸 + グルタミン酸(×n個)

この反応で、最終的に「モノグルタミン酸型葉酸(Monoglutamate form)」になります。モノグルタミン酸型でないと、小腸の細胞に吸収されません。

分解の効率

グルタミン酸カルボキシペプチダーゼIIの活性には、個人差があります。また、食品の種類、調理方法、同時に摂取した他の食品成分によっても、分解の効率が変わります。

このため、ポリグルタミン酸型葉酸の「生物学的利用能(Bioavailability、体内で利用できる割合)」は、約50%程度と推定されています。

小腸での吸収

吸収の仕組み

モノグルタミン酸型葉酸は、小腸上部(空腸)の細胞に吸収されます。吸収には、2つの経路があります。

  1. 能動輸送(低濃度時):「プロトン共役型葉酸トランスポーター(PCFT, Proton-coupled folate transporter)」という輸送タンパク質が、葉酸を細胞内に取り込む。エネルギー(ATP)を使う
  2. 受動拡散(高濃度時):葉酸の濃度が高いときは、濃度勾配に従って、自然に細胞内に入る。エネルギーは不要

通常の食事では、能動輸送が主体です。しかし、サプリメントで高用量の葉酸を摂取した場合、受動拡散も起こります。

吸収後の変化

小腸の細胞に吸収された葉酸は、すぐに血液に放出されるわけではありません。まず、細胞内で「還元」されて、「テトラヒドロ葉酸(Tetrahydrofolate, THF)」という活性型に変換されます。

反応:
葉酸(酸化型)→ ジヒドロ葉酸(DHF)→ テトラヒドロ葉酸(THF)

この還元反応は、「ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR, Dihydrofolate reductase)」によって行われます。

肝臓での代謝

肝臓への運搬

小腸で吸収され、還元されたテトラヒドロ葉酸(THF)は、門脈血を通って、肝臓に運ばれます。肝臓は、葉酸の「貯蔵庫」であり「代謝工場」です。

肝臓には、体内の葉酸の約半分が貯蔵されています。

活性型への変換

肝臓では、テトラヒドロ葉酸(THF)が、さらに代謝されて、いくつかの「活性型」に変換されます。

活性型の名称 略称 主な働き
5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸 5,10-methylene-THF チミン合成(DNA)
5-メチルテトラヒドロ葉酸 5-methyl-THF メチオニン合成(アミノ酸)
10-ホルミルテトラヒドロ葉酸 10-formyl-THF プリン合成(DNA、RNA)

MTHFR酵素の重要性

5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸を5-メチルテトラヒドロ葉酸に変換する酵素が、「MTHFR(メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素、Methylenetetrahydrofolate reductase)」です。

反応:
5,10-メチレンTHF → 5-メチルTHF

5-メチルTHFは、血液中を循環する主要な葉酸の形態で、全身の組織に運ばれ、ビタミンB12と協力して「メチオニン合成」に使われます。

MTHFR遺伝子多型

遺伝子多型とは

「遺伝子多型(Genetic polymorphism)」とは、遺伝子の配列に個人差があることです。MTHFR遺伝子には、いくつかの多型が知られており、その中で最もよく研究されているのが「C677T」と「A1298C」です。

C677T多型

MTHFR遺伝子の677番目の塩基が、C(シトシン)からT(チミン)に変わっている多型です。この変異により、アミノ酸がアラニンからバリンに変わり、酵素の活性が低下します。

遺伝子型 頻度(日本人) 酵素活性
CC(正常型) 約50-60% 100%
CT(ヘテロ接合) 約35-40% 約65%
TT(ホモ接合) 約10-15% 約30%

TT型の人は、MTHFRの活性が約30%しかないため、5-メチルTHFの生成が少なくなります。その結果、血液中のホモシステイン(メチオニン合成の前駆体)が増加し、「高ホモシステイン血症」になりやすくなります。

高ホモシステイン血症のリスク

高ホモシステイン血症は、以下のリスクを高めます。

  • 心血管疾患:動脈硬化、心筋梗塞、脳卒中
  • 神経管閉鎖障害:胎児の二分脊椎、無脳症
  • 認知機能低下:アルツハイマー病、認知症

MTHFR多型を持つ人の対策

MTHFR多型を持つ人は、以下の対策が推奨されます。

  1. 葉酸の摂取量を増やす:通常より多めの葉酸(600-800μg/日)を摂取する
  2. 活性型葉酸サプリメントの利用:5-メチルTHF(メチルフォレート)のサプリメントを使う。これは、MTHFRを経由せずに利用できる
  3. ビタミンB12の同時摂取:葉酸とB12は協力して働くため、両方を摂取する
  4. ビタミンB6の摂取:ホモシステインを別の経路で代謝するために必要

サプリメントの葉酸

モノグルタミン酸型(合成葉酸)

サプリメントや栄養強化食品に使われる葉酸は、「モノグルタミン酸型(プテロイルモノグルタミン酸、Pteroylmonoglutamic acid)」です。これは、化学的に合成されたもので、最初から1つのグルタミン酸しか持ちません。

そのため、小腸でグルタミン酸を切り離す必要がなく、そのまま吸収できます。吸収率は、約85%と、天然型(約50%)より高いです。

活性型葉酸サプリメント

近年、「活性型葉酸」のサプリメントも販売されています。これは、「5-メチルテトラヒドロ葉酸(5-methyl-THF)」または「L-メチルフォレート(L-methylfolate)」という形態で、MTHFRを経由せずに、直接利用できます。

MTHFR多型を持つ人や、葉酸の代謝が悪い人には、この活性型葉酸サプリメントが特に有効です。

天然型 vs 合成型

項目 天然型(ポリグルタミン酸型) 合成型(モノグルタミン酸型)
供給源 食品(野菜、レバー、豆類) サプリメント、強化食品
吸収率 約50% 約85%
消化の必要性 必要(グルタミン酸を切り離す) 不要
安定性 熱や光で分解されやすい 比較的安定
推奨される場面 通常の食事 妊娠前、妊娠初期、欠乏症の治療

血液中の葉酸

血清葉酸と赤血球葉酸

血液中の葉酸は、2つの形で測定されます。

  • 血清葉酸(Serum folate):血液の液体成分(血清)に含まれる葉酸。最近の摂取状況を反映する(数日〜数週間)
  • 赤血球葉酸(Red blood cell folate, RBC folate):赤血球の内部に含まれる葉酸。長期的な摂取状況を反映する(数ヶ月)

葉酸の栄養状態を評価する際は、赤血球葉酸の方が信頼性が高いです。

正常値と欠乏

指標 正常値 欠乏
血清葉酸 >3 ng/mL
赤血球葉酸 >140 ng/mL

葉酸代謝に影響する要因

薬剤

いくつかの薬剤は、葉酸の代謝を阻害します。

  • メトトレキサート:抗がん剤、関節リウマチ治療薬。ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)を阻害し、葉酸の還元を妨げる
  • 抗てんかん薬(フェニトイン、フェノバルビタールなど):葉酸の吸収と代謝を阻害する
  • スルファサラジン:炎症性腸疾患の治療薬。葉酸の吸収を阻害する
  • 経口避妊薬:葉酸の代謝を変化させる可能性がある

これらの薬剤を長期間使用する場合、葉酸サプリメントの併用が推奨されることがあります。

アルコール

アルコールは、葉酸の吸収、代謝、排泄に影響します。

  • 小腸での吸収を阻害する
  • 肝臓での代謝を妨げる
  • 尿中への排泄を増やす

アルコール多飲者は、葉酸欠乏症になりやすいです。

加齢

高齢になると、以下の理由で葉酸の栄養状態が悪化しやすくなります。

  • 食事量の減少
  • 小腸での吸収能力の低下
  • 肝臓での代謝能力の低下
  • 併用薬剤の増加

よくある質問

天然型と合成型、どちらが良いですか?

通常の食事では、天然型葉酸(野菜、レバー、豆類)を摂取することが理想的です。しかし、妊娠を計画している女性や妊婦の場合、食事だけで十分な量を摂取するのは難しいため、合成型葉酸(サプリメント)の併用が推奨されます。合成型の方が吸収率が高く、安定しているため、確実に必要量を摂取できます。

MTHFR遺伝子検査を受けるべきですか?

家族歴(心血管疾患、脳卒中、神経管閉鎖障害など)がある場合、または妊娠を計画している場合は、検査を検討する価値があります。ただし、検査結果が「TT型」だったとしても、適切な量の葉酸を摂取すれば、リスクを低減できます。まずは、食事とサプリメントで十分な葉酸を摂取することが最も重要です。

葉酸サプリメントは、空腹時と食後、どちらが良いですか?

合成型葉酸(モノグルタミン酸型)は、空腹時の方が吸収率が高いです。ただし、胃が弱い人は、食後に摂取した方が胃への負担が少なくなります。一般的には、朝食後の摂取が推奨されます。

活性型葉酸サプリメントは、誰が使うべきですか?

以下のような人には、活性型葉酸(5-メチルTHF)サプリメントが特に有効です。

  • MTHFR遺伝子多型(特にTT型)を持つ人
  • 通常の葉酸サプリメントで効果が不十分だった人
  • 高ホモシステイン血症の人
  • メトトレキサートなど葉酸代謝を阻害する薬剤を使用している人

ただし、活性型葉酸サプリメントは、通常の葉酸サプリメントより高価です。MTHFR多型を持たない人や、通常の葉酸で十分な効果が得られている人は、通常のサプリメントで問題ありません。

葉酸の過剰摂取で、未代謝の葉酸が血液中に蓄積すると聞きましたが、危険ですか?

高用量(1000μg以上)の合成型葉酸を摂取すると、肝臓の代謝能力を超えて、「未代謝の葉酸(Unmetabolized folic acid, UMFA)」が血液中に現れることがあります。UMFAの健康への影響はまだ完全には解明されていませんが、免疫機能への影響や、ビタミンB12欠乏症の隠蔽などが懸念されています。このため、耐容上限量(900-1000μg/日)を守ることが重要です。

まとめ

食品中の葉酸はポリグルタミン酸型で複数のグルタミン酸が結合しており、小腸のグルタミン酸カルボキシペプチダーゼIIによって1つずつ切り離されモノグルタミン酸型になって吸収されます。生物学的利用能は約50%で調理や消化の影響を受けます。吸収された葉酸は小腸細胞内でジヒドロ葉酸還元酵素によりテトラヒドロ葉酸に還元され、門脈血を通って肝臓に運ばれます。肝臓では5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸がMTHFR酵素により5-メチルテトラヒドロ葉酸に変換され、これが血液中の主要な循環型として全身に運ばれます。

MTHFR遺伝子C677T多型を持つ人は日本人の約15-20%で、TT型の場合は酵素活性が約30%に低下し5-メチルTHF生成が減少してホモシステインが蓄積します。高ホモシステイン血症は心血管疾患、神経管閉鎖障害、認知機能低下のリスクを高めるため、多型保有者は葉酸摂取量を600-800μg/日に増やすか活性型葉酸サプリメント(5-メチルTHF)の使用が推奨されます。サプリメントの合成型葉酸はモノグルタミン酸型で消化不要のため吸収率約85%と天然型より高く、妊娠前と妊娠初期に特に有効です。活性型葉酸サプリメントはMTHFRを経由せず直接利用でき、遺伝子多型保有者や高ホモシステイン血症患者に適しています。血清葉酸は最近数日〜数週間の摂取を反映し、赤血球葉酸は数ヶ月の長期的状態を示し、欠乏の診断には赤血球葉酸140ng/mL未満が指標です。メトトレキサートや抗てんかん薬は葉酸代謝を阻害し、アルコールは吸収と代謝を妨げ排泄を増やすため、これらの薬剤使用者やアルコール多飲者は葉酸欠乏リスクが高くなります。

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参考文献

  1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2025年版)
  2. Bailey LB, et al. Biomarkers of Nutrition for Development (BOND)-Folate Review. J Nutr, 2015
  3. Crider KS, et al. MTHFR 677C→T genotype is associated with folate and homocysteine concentrations in a large, population-based, double-blind trial of folic acid supplementation. Am J Clin Nutr, 2011
  4. Pietrzik K, et al. Folic acid and L-5-methyltetrahydrofolate: comparison of clinical pharmacokinetics and pharmacodynamics. Clin Pharmacokinet, 2010
水流琴音(つることね)

管理栄養士|分子栄養学と料理を理論から実践に落とし込んだおうちごはんが得意。栄養のいろはを詰めこんだ理系のごはん作りが好き。

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