マグネシウムが便を柔らかくするしくみ|浸透圧性下剤としての働き

便秘に悩む人なら、「酸化マグネシウム」という薬の名前を聞いたことがあるかもしれません。酸化マグネシウムは、日本で最も広く使われている便秘薬の一つで、病院でも薬局でも手に入ります。しかし、なぜマグネシウムが便秘に効くのか、その仕組みを知っている人は少ないのではないでしょうか。

マグネシウムは、腸の中で「浸透圧」という物理的な力を使って、水分を引き寄せます。この水分によって便が柔らかくなり、排便がスムーズになるのです。この仕組みを「浸透圧性下剤」と呼びます。刺激性下剤のように、腸を無理に動かすわけではないため、習慣性が少なく、長期間使っても安全性が高いのが特徴です。

この記事では、マグネシウムがどのようにして便を柔らかくするのか、浸透圧とは何か、酸化マグネシウムがなぜ便秘薬として優れているのか、食事からマグネシウムを摂取する方法、そして過剰摂取のリスクについて、詳しく解説します。

浸透圧とは何か

基本的な定義

「浸透圧」とは、濃度の異なる溶液が半透膜(水は通すが、溶質は通さない膜)で隔てられているときに、水が濃度の低い側から高い側へ移動しようとする力のことです。

簡単な例で説明しましょう。コップに水を入れ、その中に塩を溶かします。塩水の濃度が高いほど、周囲の水を引き寄せる力(浸透圧)が強くなります。

浸透圧の原理

浸透圧は、溶液中の「粒子の数」に比例します。溶質の種類(塩、砂糖、マグネシウムなど)は関係なく、溶けている粒子(分子やイオン)の総数が多いほど、浸透圧が高くなります。

浸透圧の式(ファント・ホッフの式):
π = n × R × T
π:浸透圧
n:溶質の濃度(モル濃度)
R:気体定数
T:温度(ケルビン)

体内での浸透圧

私たちの体内では、細胞や組織の間で、常に浸透圧のバランスが保たれています。血液、細胞液、腸管内の液体など、すべてが適切な浸透圧を維持しています。

もし、ある場所の浸透圧が急に高くなると、水が自然にそこへ移動して、濃度を薄めようとします。この原理を利用したのが、「浸透圧性下剤」なのです。

マグネシウムの浸透圧作用

マグネシウムイオンの性質

マグネシウム(Mg)は、体内では「マグネシウムイオン(Mg²⁺)」として存在します。このMg²⁺イオンには、以下の特徴があります。

  • 水に溶けやすい:水中で容易にイオン化する
  • 腸管で吸収されにくい:特に酸化マグネシウムの形では、小腸での吸収率が低い(約30-50%)
  • 浸透圧が高い:1つのマグネシウムイオンは、2価の陽イオン(Mg²⁺)なので、浸透圧への寄与が大きい

腸管内での水分の移動

マグネシウムが腸管内に存在すると、以下のような流れで便が柔らかくなります。

  1. マグネシウムイオンの放出:酸化マグネシウム(MgO)が胃や小腸で水と反応し、マグネシウムイオン(Mg²⁺)と水酸化物イオン(OH⁻)に分解される
  2. 腸管内の浸透圧上昇:Mg²⁺イオンとOH⁻イオンが腸管内に留まり、腸管内の溶液の浸透圧が高くなる
  3. 水分の移動:腸壁(半透膜のような働き)を通して、血液側から腸管内へ水が移動する
  4. 便の水分量増加:腸管内の水分が増えることで、便が柔らかくなる
  5. 排便促進:柔らかくなった便が、腸の蠕動運動によってスムーズに排出される

浸透圧平衡

水は、「浸透圧が高い場所」へ自然に移動して、両側の浸透圧を等しくしようとします(浸透圧平衡)。

マグネシウムが腸管内の浸透圧を高めると、水が腸壁を越えて腸管内に入り込み、腸管内と血液側の浸透圧が等しくなるまで水分移動が続きます。この結果、腸管内の水分量が増え、便が柔らかくなるのです。

酸化マグネシウムの作用機序

化学反応

酸化マグネシウム(MgO)を経口摂取すると、胃や小腸で以下の反応が起こります。

胃での反応:
MgO + 2HCl → MgCl₂ + H₂O
(塩酸と反応して、塩化マグネシウムと水が生成)

小腸での反応:
MgO + H₂O → Mg(OH)₂
(水と反応して、水酸化マグネシウムが生成)

Mg(OH)₂は、一部がMg²⁺イオンとOH⁻イオンに分解されますが、完全には溶けず、腸管内に留まります。

吸収されにくい理由

マグネシウムは、小腸で能動輸送と受動拡散の両方で吸収されますが、酸化マグネシウムの形では、以下の理由で吸収率が低くなります。

  • 溶解度が低い:Mg(OH)₂は水に溶けにくい
  • 小腸での滞在時間が短い:便秘でない限り、食物は数時間で小腸を通過する
  • 高用量:便秘薬として使う量(1日1-2g)は、通常の食事からの摂取量(200-400mg/日)より多く、吸収能力を超える

そのため、酸化マグネシウムの多くは吸収されずに大腸まで到達し、そこで水分を引き寄せます。

大腸での作用

大腸に到達したマグネシウムイオンは、引き続き浸透圧を高め、水分を保持します。大腸は通常、便から水分を再吸収して体に戻す役割を持っていますが、マグネシウムの浸透圧作用により、水分が再吸収されにくくなります。

その結果、便の水分量が維持され、柔らかいまま排出されるのです。

浸透圧性下剤の特徴

刺激性下剤との違い

下剤には、大きく分けて「浸透圧性下剤」と「刺激性下剤」があります。

種類 代表的な薬剤 作用機序 習慣性 副作用
浸透圧性下剤 酸化マグネシウム
ラクツロース
マクロゴール
腸管内の浸透圧を高めて水分を引き寄せる 低い 下痢、腹部膨満感
高マグネシウム血症(稀)
刺激性下剤 センナ
ビサコジル
ピコスルファート
腸の蠕動運動を直接刺激する 高い 腹痛、習慣性
腸の機能低下

浸透圧性下剤の利点

  • 習慣性が少ない:腸を物理的に刺激するわけではないので、長期間使用しても、腸の機能が低下しにくい
  • 自然な排便:便が柔らかくなることで、腸の正常な蠕動運動で排便が起こる
  • 安全性が高い:腎機能が正常であれば、過剰なマグネシウムは尿から排泄される

浸透圧性下剤の欠点

  • 効果が穏やか:刺激性下剤と比べて、効果が現れるまでに時間がかかる(通常6-12時間、場合によっては1-2日)
  • 腹部膨満感:水分が腸管内に移動するため、お腹が張ったように感じることがある
  • 下痢:用量が多すぎると、水分が過剰に腸管内に移動し、下痢になる

食事からのマグネシウム摂取

マグネシウムが豊富な食品

食品 1食分の量 マグネシウム含有量(mg) 1日の推奨量に対する割合
あおさ(乾燥) 大さじ1(3g) 100 30%
わかめ(乾燥) 10g 110 33%
アーモンド 20粒(25g) 77 23%
カシューナッツ 15粒(20g) 48 14%
納豆 1パック(50g) 50 15%
豆腐(木綿) 1/2丁(150g) 93 28%
玄米ごはん 1膳(150g) 74 22%
バナナ 1本(100g) 32 10%

※推奨量は成人男性340-370mg/日、成人女性270-290mg/日として計算

食事からのマグネシウムと便通

食事から摂取したマグネシウムも、同じように浸透圧作用を持ちますが、通常の食事量では、便秘薬ほどの強い効果はありません。

ただし、マグネシウムが豊富な食事を続けることで、以下の効果が期待できます。

  • 便が適度に柔らかくなり、排便がスムーズになる
  • 腸内環境が改善される(マグネシウムは腸内細菌のエサにもなる)
  • 腸の蠕動運動が正常に保たれる(マグネシウムは筋肉の収縮に必要)

過剰摂取のリスク

下痢

マグネシウムを過剰に摂取すると、腸管内の浸透圧が高くなりすぎて、水分が大量に腸管内に移動し、「浸透圧性下痢」が起こります。

食品からのマグネシウムでは、通常、過剰摂取は起こりにくいですが、サプリメントや便秘薬を大量に摂取すると、下痢になることがあります。

高マグネシウム血症

腎機能が正常であれば、過剰なマグネシウムは尿から排泄されるため、血液中のマグネシウム濃度(正常値:1.7-2.6 mg/dL)が高くなることは稀です。

しかし、腎機能が低下している人が、酸化マグネシウムを長期間、大量に服用すると、「高マグネシウム血症」になるリスクがあります。

高マグネシウム血症の症状

  • 吐き気、嘔吐
  • 筋力低下
  • 血圧低下
  • 不整脈
  • 呼吸抑制(重度の場合)

腎機能が低下している人は、酸化マグネシウムの使用を避けるか、医師の指導の下で慎重に使用する必要があります。

耐容上限量

日本人の食事摂取基準(2025年版)では、マグネシウムの「耐容上限量」は設定されていません。ただし、サプリメントや便秘薬からの摂取については、以下の目安があります。

  • 成人:通常量として350mg/日まで。これを超えると、下痢のリスクが高まる
  • 便秘薬としての用量:酸化マグネシウムは、1日1-2g(1000-2000mg)が一般的。ただし、医師の指示に従う

よくある質問

酸化マグネシウムは、毎日飲んでも大丈夫ですか?

腎機能が正常であれば、酸化マグネシウムを長期間、毎日飲んでも、刺激性下剤のような習慣性や腸の機能低下は起こりにくいです。ただし、便の状態を見ながら、適切な用量を調整することが重要です。また、定期的に医師の診察を受け、血液中のマグネシウム濃度をチェックすることが推奨されます。

食事からのマグネシウムでも、便が柔らかくなりますか?

はい、食事からのマグネシウムも、同じように浸透圧作用を持ちます。ただし、通常の食事量(200-400mg/日)では、便秘薬ほどの強い効果はありません。マグネシウムが豊富な食品(海藻、ナッツ、大豆製品、全粒穀物)を日常的に摂取することで、便が適度に柔らかくなり、排便がスムーズになる効果が期待できます。

酸化マグネシウムと、他の便秘薬を併用しても良いですか?

医師の指示がない限り、複数の便秘薬を同時に使用することは推奨されません。特に、刺激性下剤と併用すると、下痢や腹痛が起こるリスクが高まります。便秘薬を変更したい場合は、必ず医師や薬剤師に相談してください。

マグネシウムのサプリメントでも、便が柔らかくなりますか?

はい、マグネシウムサプリメント(特に、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、硫酸マグネシウムなど、吸収率が低い形態)を摂取すると、便が柔らかくなることがあります。実際、一部のマグネシウムサプリメントは、「便通改善」を目的として販売されています。ただし、サプリメントの用量を守り、下痢にならないように注意してください。

妊娠中でも、酸化マグネシウムを使って良いですか?

妊娠中の便秘は非常に一般的で、酸化マグネシウムは妊婦にも安全に使える便秘薬の一つとされています。ただし、必ず医師に相談してから使用してください。妊娠中は、水分摂取、食物繊維の摂取、適度な運動なども、便秘改善に重要です。

まとめ

マグネシウムは腸管内で浸透圧を高めて周囲から水分を引き寄せ便を柔らかくする浸透圧性下剤として機能します。酸化マグネシウムは胃や小腸で水と反応してMg²⁺イオンとOH⁻イオンを放出し、腸管内の浸透圧を上昇させます。腸壁を通して血液側から腸管内へ水が移動し、便の水分量が増加して柔らかくなり排便が促進されます。酸化マグネシウムは小腸での吸収率が低く約30-50%が吸収されずに大腸まで到達し、そこで継続的に水分を保持します。

浸透圧性下剤は刺激性下剤と異なり腸の蠕動運動を直接刺激せず物理的に便の水分量を増やすため習慣性が少なく長期使用でも腸の機能低下が起こりにくい安全な便秘薬です。効果は穏やかで6-12時間かかり、副作用として腹部膨満感や下痢が起こることがあります。食品ではあおさ100mg/大さじ1、わかめ110mg/10g、アーモンド77mg/20粒、納豆50mg/1パック、豆腐93mg/半丁に豊富で、推奨量は成人男性340-370mg/日、成人女性270-290mg/日です。

過剰摂取は浸透圧性下痢を引き起こし、腎機能低下者では高マグネシウム血症(吐き気、筋力低下、血圧低下、不整脈)のリスクがあるため注意が必要です。サプリメントからの耐容上限量は350mg/日で、便秘薬としては1日1-2g使用されます。妊娠中も医師の指導下で安全に使用でき、食事からのマグネシウムは便秘薬ほど強い効果はありませんが日常的摂取で便が適度に柔らかくなり排便がスムーズになる効果が期待できます。

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参考文献

  1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2025年版)
  2. Nelson DL, Cox MM. Lehninger Principles of Biochemistry. 8th ed. W.H. Freeman, 2021
  3. Murray RK, et al. Harper’s Illustrated Biochemistry. 32nd ed. McGraw-Hill Education, 2023
  4. Hans-Konrad Biesalski, et al. カラーアトラス栄養学. 医学書院
  5. Fine KD, et al. Intestinal absorption of magnesium from food and supplements. J Clin Invest, 1991
水流琴音(つることね)

管理栄養士|分子栄養学と料理を理論から実践に落とし込んだおうちごはんが得意。栄養のいろはを詰めこんだ理系のごはん作りが好き。

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