食事の亜鉛が体内で使える形になるまで|吸収から分布の全経路

食事から摂取した栄養素は、すぐに体で使えるわけではありません。消化され、吸収され、血液で運ばれ、必要な場所に届けられて、初めて働くことができます。亜鉛も同じです。食品に含まれる亜鉛が、体内でどのような経路をたどって、細胞に届くのか、それを理解することは、効率的に亜鉛を摂取するために重要です。

興味深いことに、食事から摂取した亜鉛の吸収率は、わずか30%程度です。つまり、10mgの亜鉛を食べても、実際に体に吸収されるのは約3mgで、残りの7mgは便として排出されてしまいます。しかも、食品の種類や、一緒に食べるものによって、吸収率が大きく変わります。穀物や豆類に含まれる「フィチン酸」という成分は、亜鉛の吸収を邪魔します。一方、肉や魚などの動物性タンパク質は、亜鉛の吸収を助けます。

この記事では、食事の亜鉛が小腸で吸収される仕組み、吸収を助ける要因と妨げる要因、血液での運搬、体内での分布と貯蔵、そして排泄について、詳しく解説します。

食品中の亜鉛

亜鉛の化学形態

食品中の亜鉛は、主に「Zn²⁺(2価の陽イオン)」として存在します。ただし、単独で存在することは少なく、以下のような形で含まれています。

  • タンパク質と結合:肉、魚、卵、豆類では、タンパク質に結合している
  • フィチン酸と結合:全粒穀物、豆類、ナッツでは、フィチン酸(植物の貯蔵リン化合物)と結合している
  • 遊離イオン:調理や消化の過程で、タンパク質から遊離したZn²⁺

動物性食品 vs 植物性食品

亜鉛は、動物性食品にも植物性食品にも含まれますが、吸収率が大きく異なります。

食品の種類 代表例 吸収率 理由
動物性食品 牛肉、豚肉、鶏肉、魚、卵、牡蠣 約40-50% フィチン酸が少ない。タンパク質が吸収を促進
植物性食品 玄米、大豆、ナッツ、全粒パン 約10-20% フィチン酸が多い。亜鉛と結合して吸収を阻害

消化と遊離

胃での消化

食品が胃に入ると、胃酸(塩酸、HCl)によって、タンパク質が分解され始めます。この過程で、タンパク質に結合していた亜鉛が遊離します。

胃酸の役割:

  • タンパク質を変性させて、酵素が働きやすくする
  • ペプシンという消化酵素を活性化する
  • 亜鉛をタンパク質から切り離す

小腸での消化

胃を通過した食べ物は、小腸に入ります。小腸では、膵臓から分泌される「膵液」に含まれる酵素(トリプシン、キモトリプシンなど)が、タンパク質をさらに小さなペプチド(アミノ酸が数個つながったもの)やアミノ酸に分解します。

この過程で、亜鉛は完全に遊離し、Zn²⁺イオンとして、小腸の内腔(ルーメン)に存在するようになります。

小腸での吸収

吸収の場所

亜鉛は、主に小腸の「十二指腸」と「空腸(上部)」で吸収されます。

吸収の仕組み

亜鉛の吸収には、2つの経路があります。

  1. 能動輸送(Active transport):エネルギー(ATP)を使って、亜鉛を細胞内に取り込む。「亜鉛トランスポーター」という輸送タンパク質が関与する
  2. 受動拡散(Passive diffusion):濃度勾配に従って、自然に亜鉛が細胞内に入る。高濃度のときに起こる

通常の食事では、能動輸送が主体です。しかし、サプリメントで高用量の亜鉛を摂取した場合は、受動拡散も起こります。

亜鉛トランスポーター

亜鉛の吸収に関わる主要なトランスポーター:

  • ZIP4(Zrt/Irt-like Protein 4):小腸の細胞(腸管上皮細胞)の「刷子縁膜(ブラシのような突起がある膜)」に存在。腸管内から細胞内へ亜鉛を取り込む
  • ZnT1(Zinc Transporter 1):腸管上皮細胞の「基底膜(血液側の膜)」に存在。細胞内から血液へ亜鉛を放出する

亜鉛の吸収の流れ:
腸管内(Zn²⁺)→ ZIP4 → 腸管上皮細胞内(Zn²⁺)→ ZnT1 → 血液(Zn²⁺)

吸収率

食事から摂取した亜鉛の吸収率は、平均して約30%です。ただし、以下の要因によって、10-50%の範囲で変動します。

吸収を助ける要因

動物性タンパク質

肉、魚、卵などの動物性タンパク質は、亜鉛の吸収を促進します。

理由:

  • アミノ酸(特に、システイン、ヒスチジン)が、亜鉛と「キレート」を形成する。このキレートは、水に溶けやすく、吸収されやすい
  • 動物性食品には、フィチン酸がほとんど含まれない

有機酸

クエン酸、リンゴ酸、乳酸などの有機酸も、亜鉛の吸収を助けます。

理由:

  • 有機酸が、亜鉛と可溶性のキレートを形成する
  • 胃酸の分泌を促進する(特に、高齢者では有効)

有機酸を含む食品:

  • 柑橘類(レモン、オレンジ)
  • ヨーグルト、チーズ(乳酸)

亜鉛欠乏状態

興味深いことに、体が亜鉛不足の状態だと、吸収率が高くなります。

理由:

  • ZIP4の発現量が増える(亜鉛が不足すると、腸管上皮細胞がZIP4を多く作る)
  • 体が、亜鉛を「節約モード」に切り替え、排泄を減らす

吸収を妨げる要因

フィチン酸

「フィチン酸(Phytic acid、イノシトール6リン酸)」は、植物の種子に含まれる、リンの貯蔵形態です。全粒穀物、豆類、ナッツに豊富に含まれています。

フィチン酸の問題:

  • フィチン酸は、強い「陰イオン(負の電荷)」を持つ
  • 亜鉛(Zn²⁺、陽イオン)と結合して、「フィチン酸-亜鉛複合体」を形成する
  • この複合体は、水に溶けず、腸管から吸収できない
  • そのまま便として排出される

フィチン酸が多い食品:

食品 フィチン酸含有量(mg/100g)
玄米 約840-990
全粒小麦 約1140
大豆 約1000-2200
アーモンド 約1280
白米 約150-180

フィチン酸を減らす方法:

  • 発芽:種子を発芽させると、フィターゼという酵素が活性化し、フィチン酸が分解される
  • 発酵:味噌、納豆、テンペ、パン(酵母発酵)など。微生物がフィチン酸を分解する
  • 浸水:豆類やナッツを水に浸けると、フィチン酸が水に溶け出す
  • 加熱:完全には分解されないが、一部は減る

カルシウム

カルシウム(Ca²⁺)は、亜鉛と同じ「2価の陽イオン」で、腸管で同じ輸送体を使って吸収されます。そのため、カルシウムを大量に摂取すると、競合的に亜鉛の吸収が阻害されます。

影響が出るレベル:

  • カルシウム:亜鉛の比率が、10:1を超えると、亜鉛の吸収が低下する
  • 例:カルシウム1000mg + 亜鉛10mgの食事 → 比率10:1(境界線)

対策:

  • カルシウムサプリメントと亜鉛サプリメントを、同時に摂取しない(2-3時間空ける)
  • 食事全体で、バランスを取る

鉄(Fe²⁺、Fe³⁺)も、亜鉛と競合します。特に、鉄サプリメント(硫酸第一鉄など)を高用量で摂取すると、亜鉛の吸収が阻害されます。

影響が出るレベル:

  • 鉄:亜鉛の比率が、2:1を超えると、亜鉛の吸収が低下する

妊婦への注意:

妊婦は、鉄と亜鉛の両方の需要が増えます。鉄サプリメントを処方される場合は、亜鉛の摂取も意識する必要があります。

食物繊維

一部の食物繊維(特に、不溶性食物繊維)は、亜鉛と結合して、吸収を妨げることがあります。ただし、影響は軽度で、フィチン酸ほど強くありません。

血液での運搬

アルブミンとの結合

小腸で吸収された亜鉛は、血液に入ります。血液中では、ほとんどの亜鉛が「アルブミン」というタンパク質に結合して運ばれます。

血液中の亜鉛の分布:

  • アルブミン結合型:約80%
  • α₂-マクログロブリン結合型:約15%
  • 遊離イオン(Zn²⁺):約5%(実際に細胞に取り込まれる形)

門脈から肝臓へ

小腸で吸収された亜鉛は、まず「門脈血」を通って、肝臓に運ばれます。肝臓は、亜鉛の「中継センター」のような役割を果たします。

肝臓での処理:

  • 一部の亜鉛を貯蔵する(メタロチオネインというタンパク質に結合)
  • 一部の亜鉛を、全身循環血に放出する
  • 過剰な亜鉛を、胆汁に排泄する

体内での分布と貯蔵

主な貯蔵場所

体内の亜鉛は、以下のように分布しています。

組織 亜鉛の割合 主な役割
筋肉 約60% 酵素の補因子、タンパク質合成
約30% 長期貯蔵、骨の形成
肝臓 約5% 代謝、解毒、貯蔵
皮膚 約2% 細胞分裂、創傷治癒
約1.5% 神経伝達
前立腺(男性) 約0.5% 前立腺液の生成

メタロチオネイン

「メタロチオネイン(Metallothionein)」は、細胞内で亜鉛を結合するタンパク質です。

役割:

  • 亜鉛の貯蔵:過剰な亜鉛を一時的に保管する
  • 亜鉛の調節:必要なときに、亜鉛を放出する
  • 解毒:カドミウムや水銀などの有害金属を結合して、無毒化する

亜鉛が不足すると、メタロチオネインの合成が減ります。逆に、亜鉛が過剰になると、メタロチオネインの合成が増えます。

貯蔵量の限界

亜鉛の体内貯蔵量は、鉄やビタミンB12と比べて少なく、せいぜい数週間分しかありません。そのため、亜鉛は「毎日の食事から継続的に摂取する必要がある」ミネラルです。

排泄

主な排泄経路

亜鉛は、主に以下の経路で体外に排泄されます。

経路 割合 詳細
便(消化管からの分泌) 約50-70% 肝臓から胆汁に分泌された亜鉛、膵液、腸管からの分泌
便(吸収されなかった分) 約30-50% 食事から摂取したが、吸収されなかった亜鉛
尿 約10% 腎臓から排泄される。少量
約1-2% 激しい運動やサウナで増える
皮膚の剥離 微量 表皮細胞が剥がれるときに失われる

胆汁への分泌

肝臓は、過剰な亜鉛を「胆汁」に分泌します。胆汁は、胆嚢に貯蔵され、食事の後に十二指腸に放出されます。

胆汁に分泌された亜鉛の運命:

  • 一部は、再び小腸で吸収される(腸肝循環)
  • 残りは、便として排泄される

排泄の調節

体内の亜鉛が不足すると、以下のメカニズムで亜鉛が節約されます。

  • 吸収率の増加:ZIP4の発現が増える
  • 排泄の減少:胆汁への分泌が減る、尿中排泄が減る
  • 腸肝循環の増加:胆汁から再吸収される亜鉛が増える

逆に、亜鉛が過剰になると、排泄が増えます。

亜鉛の吸収率を高める食事の工夫

食事で摂るときには

  1. 動物性タンパク質と一緒に食べる:玄米や豆類だけでなく、肉や魚を一緒に食べると、亜鉛の吸収が高まる
  2. 発酵食品を活用する:納豆、味噌、テンペ、パンなどは、フィチン酸が減っている
  3. 豆類やナッツを浸水させる:調理前に、6-12時間水に浸けると、フィチン酸が減る
  4. 柑橘類を添える:レモン汁やオレンジジュースなど、クエン酸が亜鉛の吸収を助ける
  5. サプリメントの同時摂取を避ける:カルシウムや鉄のサプリメントと、亜鉛サプリメントを同時に飲まない

菜食主義者の方は

完全菜食主義者(ビーガン)の場合、植物性食品だけでは、亜鉛の吸収率が低いため、推奨量の1.5倍程度(男性16-17mg/日、女性12mg/日)を摂取することが推奨されます。

または、亜鉛サプリメントの使用を検討してくださいね。

よくある質問

亜鉛サプリメントは、空腹時と食後、どちらが良いですか?

空腹時の方が、吸収率が高いといわれています。食事と一緒に摂ると、フィチン酸、カルシウム、鉄などの影響で、吸収が阻害されることがあります。ただし、空腹時に亜鉛サプリメントを摂ると、胃が荒れる人もいます。その場合は、少量の食事と一緒に摂ってください。

亜鉛サプリメントの形態(硫酸亜鉛、グルコン酸亜鉛など)で、吸収率は変わりますか?

わずかにですが、吸収率は異なります。

形態 吸収率 特徴
硫酸亜鉛 約20-30% 最も一般的。安価。胃への刺激が強い
グルコン酸亜鉛 約20-30% 胃への刺激が少ない。風邪のトローチに使われる
ピコリン酸亜鉛 約30-40% 吸収率が最も高い。やや高価
酢酸亜鉛 約20-30% 風邪のトローチに使われる

亜鉛の血液検査は、正確ですか?

血清亜鉛値(正常値:80-130 μg/dL)は、亜鉛の栄養状態を評価する一般的な指標ですが、完全ではありません。理由は、以下の通りです。

  • 血液中の亜鉛は、体内の総亜鉛の1%以下
  • 炎症や感染症があると、血清亜鉛値が一時的に低下する(亜鉛が肝臓に移動するため)
  • 軽度の欠乏では、正常範囲内の値を示すことがある

より正確な評価には、「赤血球内亜鉛濃度」「毛髪中亜鉛濃度」「味覚検査」などを組み合わせます。

亜鉛の過剰摂取で、銅欠乏になるのはなぜですか?

亜鉛と銅は、小腸で同じ輸送体(ZIP4など)を使って吸収されます。高用量の亜鉛(50mg/日以上)を長期間摂取すると、銅の吸収が競合的に阻害され、銅欠乏になります。また、亜鉛が腸管上皮細胞内でメタロチオネインの合成を増やし、メタロチオネインが銅を結合して、銅の血液への放出を妨げます。銅欠乏の症状には、貧血、好中球減少(免疫力低下)、神経障害などがあります。

妊娠中は、亜鉛の吸収率が高くなりますか?

妊娠中は、胎児の成長のために亜鉛の需要が増えます。そのため、体は自動的に亜鉛の吸収率を高めます(ZIP4の発現が増える)。ただし、それでも十分ではないため、推奨量が通常より2mg/日多く設定されています(合計10mg/日)。

まとめ

食品中の亜鉛は小腸で吸収されますが吸収率は約30%と低く、残りは便として排出されます。穀物や豆類に含まれるフィチン酸が亜鉛とくっついて吸収されにくい塊を作るため、玄米や大豆の亜鉛は吸収が悪くなります。一方、肉や魚などの動物性タンパク質は亜鉛の吸収を助け、吸収率が40-50%まで高まります。小腸の十二指腸と空腸で亜鉛トランスポーターZIP4が亜鉛を取り込み、ZnT1が血液へ放出します。

吸収された亜鉛は血液中のアルブミンに結合して全身に運ばれ、筋肉に約60%、骨に約30%、肝臓に約5%貯蔵されます。肝臓は中継センターとして一部を貯蔵し一部を全身に配り、過剰分は胆汁に排泄します。体内の貯蔵量は数週間分しかないため、毎日の食事から継続的に摂取する必要があります。排泄は便が主で約80-120%、尿が約10%です。

フィチン酸を減らすには発芽、発酵、浸水が有効で、納豆や味噌などの発酵食品では微生物がフィチン酸を分解します。動物性タンパク質と一緒に食べる、柑橘類のクエン酸を添える、カルシウムや鉄サプリとの同時摂取を避けることで吸収率が高まります。完全菜食主義者は吸収率が低いため、推奨量の1.5倍(男性16-17mg/日、女性12mg/日)の摂取が推奨されます。

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参考文献

  1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2025年版)
  2. Nelson DL, Cox MM. Lehninger Principles of Biochemistry. 8th ed. W.H. Freeman, 2021
  3. Murray RK, et al. Harper’s Illustrated Biochemistry. 32nd ed. McGraw-Hill Education, 2023
  4. Hans-Konrad Biesalski, et al. カラーアトラス栄養学. 医学書院
  5. Lönnerdal B. Dietary factors influencing zinc absorption. J Nutr, 2000
  6. Cousins RJ, et al. Mammalian zinc transport, trafficking, and signals. J Biol Chem, 2006
水流琴音(つることね)

管理栄養士|分子栄養学と料理を理論から実践に落とし込んだおうちごはんが得意。栄養のいろはを詰めこんだ理系のごはん作りが好き。

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