なぜタンパク質は分解しないと吸収できないの?|分子サイズと透過性

私たちは毎日、肉、魚、卵、豆腐など、さまざまなタンパク質を食べています。しかし、食べたタンパク質がそのまま体に吸収されるわけではありません。タンパク質は、まず「アミノ酸」という小さな部品にバラバラに分解されて、初めて腸から吸収できるようになります。

なぜ、タンパク質は分解しないと吸収できないのでしょうか?その答えは、「分子の大きさ」にあります。タンパク質は非常に大きな分子で、腸の壁には小さな穴しか開いていません。大きなタンパク質は、この穴を通り抜けることができないのです。もし、大きなタンパク質がそのまま吸収されてしまうと、体はそれを「異物」と判断して攻撃し、食物アレルギーを引き起こします。

この記事では、タンパク質の分子サイズ、腸の透過性、なぜ分解が必要なのか、消化酵素の働き、食物アレルギーとの関係、そして赤ちゃんの腸の特殊性について、わかりやすく解説します。

タンパク質の分子サイズ

タンパク質とは

タンパク質は、「アミノ酸」という小さな部品が、数十個から数千個つながってできた、大きな分子です。アミノ酸同士は、「ペプチド結合」という結合でつながっています。

タンパク質の構造:
アミノ酸 – アミノ酸 – アミノ酸 – … – アミノ酸
(数十〜数千個のアミノ酸がつながっている)

分子量

分子の大きさを表す単位が「分子量」です。分子量が大きいほど、分子が大きいということです。

物質 分子量 大きさのイメージ
18 非常に小さい
グルコース(糖) 180 小さい
アミノ酸 約75-200 小さい
ジペプチド(アミノ酸2個) 約200 小さい
トリペプチド(アミノ酸3個) 約300 やや小さい
インスリン(タンパク質) 約5,800 中くらい
アルブミン(血液中のタンパク質) 約66,000 大きい
ヘモグロビン(赤血球のタンパク質) 約64,500 大きい
免疫グロブリンG(抗体) 約150,000 非常に大きい

タンパク質の分子量は、数千〜数十万にもなります。これは、アミノ酸(分子量75-200)の数百倍〜数千倍の大きさです。

腸の透過性

腸管上皮細胞

小腸の内側は、「腸管上皮細胞」という細胞が、びっしりと並んでいます。これらの細胞が、腸の「壁」を作っています。栄養素が血液に入るためには、この壁を通り抜ける必要があります。

透過できる分子の大きさ

腸管上皮細胞の間には、わずかな隙間(タイトジャンクション)があります。この隙間を通り抜けられる分子の大きさには、限界があります。

分子量約600以下の分子:隙間を通り抜けられる(受動拡散)
分子量600以上の分子:隙間を通り抜けられない(能動輸送が必要)

アミノ酸(分子量75-200)やジペプチド(分子量約200)、トリペプチド(分子量約300)は、この基準を満たすため、吸収できます。

しかし、タンパク質(分子量数千〜数十万)は、あまりにも大きすぎて、隙間を通り抜けることができません。

栄養素の吸収経路

栄養素が腸管上皮細胞を通過する方法は、主に2つあります。

  1. 細胞を通る経路(経細胞経路):細胞の中を通って吸収される。アミノ酸やペプチドは、この経路で吸収される
  2. 細胞の間を通る経路(傍細胞経路):細胞と細胞の間の隙間を通って吸収される。水や小さな分子(分子量600以下)のみ

タンパク質は、どちらの経路も通れません。そのため、アミノ酸やペプチドに分解する必要があるのです。

なぜ分解が必要なのか

理由1:分子サイズが大きすぎる

前述の通り、タンパク質は分子量が数千〜数十万と非常に大きく、腸の壁を通り抜けることができません。アミノ酸(分子量75-200)まで分解することで、初めて吸収可能なサイズになります。

理由2:異物として認識される

もし、大きなタンパク質が何らかの理由で腸から吸収されてしまうと、体はそれを「異物」と判断します。なぜなら、体内のタンパク質と、食べ物のタンパク質は、アミノ酸配列が異なるからです。

体の免疫系は、「自分のタンパク質」と「他のタンパク質」を区別します。食べ物のタンパク質が、そのまま血液に入ると、免疫系が「敵だ!」と判断して、攻撃します。これが、「食物アレルギー」の原因です。

理由3:アミノ酸として再利用する

食べたタンパク質を、そのまま体のタンパク質として使うことはできません。なぜなら、食べ物のタンパク質(例:牛肉のタンパク質)と、人間の体のタンパク質(例:筋肉のタンパク質)は、アミノ酸の配列が異なるからです。

体は、食べたタンパク質を一度、アミノ酸にバラバラにして、そのアミノ酸を使って、自分の体に必要なタンパク質を作り直します。これが、「タンパク質の代謝」です。

消化酵素の働き

消化の3段階

タンパク質の消化は、以下の3つの場所で、段階的に進みます。

  1. :ペプシンが、タンパク質を大きなペプチドに分解する
  2. 十二指腸:膵液の酵素(トリプシン、キモトリプシンなど)が、ペプチドをさらに小さくする
  3. 小腸:小腸の刷子縁にある酵素が、ペプチドをアミノ酸に分解する

胃:ペプシン

胃では、「ペプシン」という消化酵素が働きます。ペプシンは、胃酸(pH 1.5-2.0)の強い酸性環境で活性化されます。

ペプシンの働き:

  • タンパク質の内部のペプチド結合を切断する
  • 大きなペプチド(10-20個のアミノ酸がつながったもの)に分解する
  • 完全にアミノ酸までは分解しない

胃酸の役割:

  • タンパク質を「変性」させる(立体構造をほどく)
  • ペプシンを活性化する(ペプシノーゲン → ペプシン)
  • 細菌を殺菌する

十二指腸:膵液の酵素

胃を通過した食べ物は、十二指腸に入ります。十二指腸では、膵臓から分泌される「膵液」に含まれる酵素が、ペプチドをさらに分解します。

主な膵液の酵素:

酵素 基質特異性 切断する場所
トリプシン リジン、アルギニン(塩基性アミノ酸)の後ろ 内部
キモトリプシン フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン(芳香族アミノ酸)の後ろ 内部
エラスターゼ アラニン、バリン、セリン(小さなアミノ酸)の後ろ 内部
カルボキシペプチダーゼ C末端(カルボキシル基側の端) 端から1つずつ

これらの酵素が協力して、大きなペプチドを、ジペプチド(アミノ酸2個)、トリペプチド(アミノ酸3個)、または遊離アミノ酸に分解します。

小腸:刷子縁の酵素

小腸の腸管上皮細胞の表面(刷子縁)には、さらに細かい酵素があります。

  • アミノペプチダーゼ:ペプチドのN末端(アミノ基側の端)から、アミノ酸を1つずつ切り離す
  • ジペプチダーゼ:ジペプチド(アミノ酸2個)を、2つのアミノ酸に分解する

これらの酵素により、最終的に、ほぼすべてのタンパク質が、アミノ酸、ジペプチド、トリペプチドに分解されます。

アミノ酸とペプチドの吸収

アミノ酸の吸収

遊離アミノ酸は、腸管上皮細胞の「アミノ酸トランスポーター」によって、能動輸送で吸収されます。

主なアミノ酸トランスポーター:

トランスポーター 輸送するアミノ酸 駆動力
システムB⁰ 中性アミノ酸(アラニン、セリン、グルタミンなど) Na⁺共輸送
システムb⁰,⁺ 塩基性アミノ酸(リジン、アルギニン)と中性アミノ酸 Na⁺非依存性
EAAT3 酸性アミノ酸(グルタミン酸、アスパラギン酸) Na⁺共輸送

ペプチドの吸収

ジペプチドとトリペプチドは、「PepT1(ペプチドトランスポーター1)」というトランスポーターで吸収されます。

PepT1の特徴:

  • ジペプチドとトリペプチドを輸送する
  • プロトン(H⁺)共輸送で働く(腸管内のH⁺と一緒に、ペプチドを取り込む)
  • 基質特異性が低い(さまざまなペプチドを輸送できる)

吸収されたペプチドは、細胞内で、さらに「細胞内ペプチダーゼ」によって、アミノ酸に分解されます。その後、アミノ酸は、細胞の基底膜側から、血液に放出されます。

吸収効率

興味深いことに、ペプチド形態(ジペプチド、トリペプチド)の方が、遊離アミノ酸よりも、吸収が速いことがあります。

理由:

  • PepT1は、輸送能力が高い
  • 複数のアミノ酸トランスポーターが競合する遊離アミノ酸と違い、ペプチドはPepT1だけを使う

このため、スポーツ栄養や医療用の栄養補助食品では、「ペプチド形態」のタンパク質(ペプチドサプリメント)が使われることがあります。

食物アレルギーとの関係

食物アレルギーの仕組み

食物アレルギーは、本来は無害な食べ物のタンパク質(アレルゲン)に対して、免疫系が過剰に反応する病気です。

発症のメカニズム:

  1. 消化が不十分で、大きなタンパク質またはペプチドが、腸から吸収される
  2. 免疫系が、そのタンパク質を「異物」と認識する
  3. IgE抗体が作られる(感作)
  4. 次に同じ食べ物を食べたとき、IgE抗体が反応して、ヒスタミンなどの化学物質が放出される
  5. アレルギー症状(じんましん、呼吸困難、アナフィラキシーなど)が起こる

消化とアレルギーの関係

正常な消化では、タンパク質は完全にアミノ酸まで分解されます。アミノ酸は、非常に小さく、免疫系に「異物」と認識されません。

しかし、以下のような場合、タンパク質が十分に分解されず、アレルギーのリスクが高まります。

  • 胃酸の分泌不足:高齢者、胃の病気、胃酸抑制薬(プロトンポンプ阻害薬など)の使用
  • 膵酵素の分泌不足:慢性膵炎、膵臓がん
  • 腸の炎症:炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)で、腸の透過性が高まる
  • 乳児期:消化酵素の分泌が未熟、腸の透過性が高い

主要なアレルゲンタンパク質

食品 主なアレルゲン 特徴
オボアルブミン、オボムコイド 加熱に強い
牛乳 カゼイン、β-ラクトグロブリン 加熱に強い
小麦 グリアジン、グルテニン 消化されにくい
大豆 グリシニン 加熱で変性
ピーナッツ Ara h 1, Ara h 2 消化に非常に強い
エビ・カニ トロポミオシン 加熱に強い

これらのアレルゲンタンパク質は、消化酵素で分解されにくい性質を持っているため、アレルギーを起こしやすいのです。

赤ちゃんの腸の特殊性

新生児の腸管透過性

生まれたばかりの赤ちゃん(新生児)は、成人と比べて、腸の透過性が高いという特徴があります。つまり、腸の壁の「隙間」が、やや大きいのです。

この高い透過性には、重要な理由があります。

母乳の免疫グロブリン

母乳には、「免疫グロブリン(IgA、IgG)」という、母親の抗体が含まれています。これらは、タンパク質です(分子量約15万-90万)。

新生児は、まだ自分の免疫系が未熟なため、母親から抗体をもらうことで、感染症から身を守ります。この抗体を、母乳から吸収するために、腸の透過性が高くなっているのです。

吸収の仕組み:

  • 腸管上皮細胞が、免疫グロブリンを「エンドサイトーシス(細胞が外の物質を取り込む現象)」で取り込む
  • 取り込まれた免疫グロブリンは、分解されずに、反対側(血液側)に放出される(トランスサイトーシス)

透過性の変化

生後数ヶ月が経つと、腸の透過性は徐々に低下し、成人と同じレベルになります。これを「腸管の閉鎖(Gut closure)」と呼びます。

腸管の閉鎖が起こる理由:

  • 赤ちゃん自身の免疫系が発達し、母親からの抗体が不要になる
  • 食べ物のタンパク質が吸収されると、アレルギーのリスクが高まるため、透過性を下げる必要がある

早期の離乳食とアレルギー

以前は、「離乳食を遅らせることで、アレルギーを予防できる」と考えられていました。しかし、最近の研究では、逆に「早期から少量ずつ与える方が、アレルギーを予防できる」ことがわかってきました。

現在の推奨(日本小児科学会):

  • 生後5-6ヶ月頃から、離乳食を開始する
  • アレルゲン性の高い食品(卵、小麦、乳製品など)も、少量ずつ与える
  • ただし、湿疹がひどい場合は、医師に相談する

タンパク質の吸収率

消化・吸収率

健康な成人では、食事から摂取したタンパク質の約95%が、消化・吸収されます。これは、非常に高い効率です。

残りの5%は、以下のような形で、便として排泄されます。

  • 消化されなかったタンパク質
  • 腸内細菌によって代謝されたタンパク質
  • 腸管から剥がれ落ちた細胞(これもタンパク質を含む)

タンパク質の種類による違い

タンパク質の消化率は、食品の種類によって異なります。

食品 消化率 理由
約97-98% 非常に消化されやすい。加熱すると、さらに消化率が上がる
牛乳 約95-97% カゼインとホエイタンパク質は、消化されやすい
肉・魚 約95-97% 筋肉のタンパク質は、消化されやすい
大豆 約85-90% 植物性タンパク質は、やや消化されにくい。加熱や発酵で改善
小麦 約85-90% グルテンは、やや消化されにくい

動物性タンパク質の方が、植物性タンパク質より、消化率が高い傾向があります。

消化を助ける要因

調理

調理(加熱)は、タンパク質の消化率を高めます。

加熱の効果:

  • タンパク質の変性:立体構造がほどけて、消化酵素が働きやすくなる
  • 有害物質の不活性化:生の大豆に含まれる「トリプシンインヒビター(トリプシンの働きを阻害する物質)」が、加熱で壊れる
  • 殺菌:細菌やウイルスを殺す

例:生卵の消化率は約50%ですが、ゆで卵や焼き卵では約97-98%に上がります。

よく噛むこと

よく噛むことで、食べ物が細かくなり、消化酵素が働きやすくなります。また、唾液の分泌も増えます(唾液には、タンパク質の消化酵素は含まれませんが、食べ物を湿らせて、飲み込みやすくします)。

胃酸の正常な分泌

胃酸は、タンパク質の消化に必須です。胃酸分泌が低下すると、タンパク質の消化が悪くなり、栄養不足や、アレルギーのリスクが高まります。

胃酸分泌を助ける方法:

  • ストレスを減らす
  • よく噛む
  • 胃酸抑制薬(プロトンポンプ阻害薬など)の長期使用を避ける(医師と相談)

よくある質問

プロテインパウダーは、吸収が早いですか?

はい。プロテインパウダー(ホエイプロテインなど)は、すでにタンパク質が細かく分解されているため、消化・吸収が速いです。特に、「加水分解ホエイプロテイン」は、ペプチド形態になっており、さらに吸収が速いとされています。運動後の素早い栄養補給に適しています。

タンパク質を摂りすぎると、消化不良になりますか?

健康な人であれば、適度な量のタンパク質(体重1kgあたり1-2g/日)を摂取しても、消化不良にはなりません。ただし、非常に大量のタンパク質(体重1kgあたり3g/日以上)を長期間摂取すると、腎臓や肝臓に負担がかかる可能性があります。また、一度に大量のタンパク質を食べると、消化が追いつかず、腹部膨満感や下痢を起こすことがあります。

アミノ酸サプリメントとプロテインパウダー、どちらが良いですか?

目的によって異なるため、使い分けることがおすすめです。

  • アミノ酸サプリメント:消化不要で、すぐに吸収される。運動中や直後の素早い栄養補給に適している。ただし、高価で、味が悪いことが多い
  • プロテインパウダー:消化が必要だが、吸収は十分に速い。コストパフォーマンスが良く、味も豊富。日常的なタンパク質補給に適している

一般的には、プロテインパウダーで十分です。消化機能に問題がある場合や、特別な状況(手術後、重症患者など)では、アミノ酸サプリメントが選ばれることがあります。

まとめ

タンパク質は分子量が数千から数十万と非常に大きく、腸の壁を通り抜けられません。腸が通せるのは分子量約600以下の小さな分子だけで、タンパク質をアミノ酸(分子量75-200)まで分解することで初めて吸収できるようになります。もし大きなタンパク質がそのまま吸収されると体が異物と判断して攻撃し食物アレルギーを引き起こします。消化は胃・十二指腸・小腸の3段階で進み、ペプシン、トリプシン、キモトリプシンなどの消化酵素が協力して完全に分解します。

吸収はアミノ酸トランスポーターとペプチドトランスポーターPepT1により行われ、ジペプチドとトリペプチドは遊離アミノ酸より吸収が速いことがあります。健康な成人ではタンパク質の約95%が消化吸収され、動物性タンパク質(卵97-98%、肉魚95-97%)の方が植物性タンパク質(大豆85-90%)より消化率が高い傾向があります。加熱調理はタンパク質を変性させ消化酵素が働きやすくなり、生卵50%がゆで卵97-98%に向上します。

赤ちゃんは腸の透過性が高く母乳の免疫グロブリンを吸収できますが、生後数ヶ月で透過性が低下し成人と同じになります。食物アレルギーは消化不十分な大きなタンパク質やペプチドが吸収されることで起こり、卵のオボアルブミン、牛乳のカゼイン、ピーナッツのAra hタンパク質などは消化酵素で分解されにくくアレルギーを起こしやすい特徴があります。現在は生後5-6ヶ月から少量ずつアレルゲン食品を与える方がアレルギー予防に効果的とされています。

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参考文献

  1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2025年版)
  2. Nelson DL, Cox MM. Lehninger Principles of Biochemistry. 8th ed. W.H. Freeman, 2021
  3. Murray RK, et al. Harper’s Illustrated Biochemistry. 32nd ed. McGraw-Hill Education, 2023
  4. Hans-Konrad Biesalski, et al. カラーアトラス栄養学. 医学書院
  5. Daniel H. Molecular and integrative physiology of intestinal peptide transport. Annu Rev Physiol, 2004
  6. Brøbech Mortensen P, et al. The degradation of amino acids, proteins, and blood to short-chain fatty acids in colon is prevented by lactulose. Gastroenterology, 1990
水流琴音(つることね)

管理栄養士|分子栄養学と料理を理論から実践に落とし込んだおうちごはんが得意。栄養のいろはを詰めこんだ理系のごはん作りが好き。

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