ニンジンやカボチャなど、鮮やかなオレンジ色の野菜を食べると「目に良い」と言われます。これは、これらの野菜に豊富に含まれる「β-カロテン」が、体内でビタミンAに変換されるからです。しかし、β-カロテンがどのようにしてビタミンAになるのか、その具体的なプロセスを知っている人は少ないかもしれません。
β-カロテンは、植物が光合成の際に作り出すカロテノイド色素の一種で、その名の通り「カロテン(carrot、ニンジン)」から発見されました。興味深いことに、β-カロテンの分子構造は、まるで「2つのビタミンA分子が背中合わせにつながった形」をしています。そのため、小腸の「β-カロテン15,15′-モノオキシゲナーゼ(BCO1)」という酵素が、β-カロテンの中央で切断すると、2分子のレチナール(ビタミンAの一形態)が生成されます。このレチナールはさらにレチノールに還元され、肝臓に貯蔵されて、必要に応じて全身で利用されるのです。
この記事では、β-カロテンがどのように体内に吸収され、どこで、どの酵素によって、どのようにビタミンAに変換されるのか、その詳細な変換過程を分子レベルから解説します。
β-カロテンとは何か
β-カロテンの化学構造
β-カロテンは、分子式C₄₀H₅₆の炭化水素で、40個の炭素原子が長い鎖状に連なった構造をしています。この鎖には、11個の共役二重結合(交互に並ぶ単結合と二重結合)があり、これが光を吸収する性質を生み出しています。β-カロテンが吸収するのは、主に青色光(波長450-500nm)で、そのため補色であるオレンジ色に見えるのです。
β-カロテンの構造の両端には、「β-イオノン環」という6員環の構造があります。この構造が、ビタミンA(レチノール)の構造と同じなのです。つまり、β-カロテンは、以下のように表すことができます。
β-カロテン = β-イオノン環 – 共役鎖 – 共役鎖 – β-イオノン環
ビタミンA = β-イオノン環 – 共役鎖
つまり、β-カロテンを中央で切断すると、2つのビタミンA分子ができるわけです。
カロテノイドの種類
カロテノイドは、植物や微生物が合成する色素で、700種類以上が知られています。このうち、体内でビタミンAに変換できるものを「プロビタミンAカロテノイド」と呼びます。
| カロテノイド | ビタミンA変換 | 変換効率 | 主な食品 |
|---|---|---|---|
| β-カロテン | ○(2分子) | 100%(基準) | ニンジン、カボチャ、ホウレン草 |
| α-カロテン | ○(1分子) | 約50% | ニンジン、カボチャ |
| β-クリプトキサンチン | ○(1分子) | 約50% | ミカン、柿 |
| リコピン | × | 0% | トマト、スイカ |
| ルテイン | × | 0% | ケール、ホウレン草 |
| ゼアキサンチン | × | 0% | トウモロコシ、卵黄 |
β-カロテンは、2つのβ-イオノン環を持つため、2分子のビタミンAに変換できます。α-カロテンとβ-クリプトキサンチンは、1つのβ-イオノン環しか持たないため、1分子のビタミンAにしか変換できません。リコピン、ルテイン、ゼアキサンチンは、β-イオノン環を持たないため、ビタミンAには変換できませんが、それぞれ独自の抗酸化作用や健康効果を持っています。
β-カロテンが豊富な食品
| 食品 | β-カロテン含有量(μg/100g) | ビタミンA活性(μgRAE/100g) |
|---|---|---|
| モロヘイヤ(生) | 10,000 | 840 |
| ニンジン(生) | 8,600 | 720 |
| ニンジン(茹で) | 8,300 | 690 |
| 春菊(生) | 4,500 | 380 |
| ホウレン草(生) | 4,200 | 350 |
| カボチャ(西洋、茹で) | 3,900 | 330 |
| 小松菜(生) | 3,100 | 260 |
| ニラ(生) | 3,500 | 290 |
※ビタミンA活性(RAE)は、β-カロテン12μg = レチノール1μgとして計算されています。
小腸での吸収
胆汁酸ミセルへの取り込み
β-カロテンは脂溶性なので、水に溶けません。そのため、小腸で吸収されるには、「胆汁酸ミセル」という小さな脂質の粒子に取り込まれる必要があります。
- 食事中の脂質(油)と一緒に胃から十二指腸に入る
- 胆嚢から分泌される胆汁酸が、脂質を乳化(小さな粒子に分散)する
- 膵臓から分泌されるリパーゼが、中性脂肪を分解する
- 分解された脂肪酸、モノグリセリド、β-カロテンなどが、胆汁酸ミセルに取り込まれる
- ミセルが小腸の上皮細胞(腸管細胞)の表面に到達する
このプロセスで重要なのは、β-カロテンは「油と一緒に摂取しないと、ほとんど吸収されない」ということです。研究では、油なしでニンジンを食べた場合、β-カロテンの吸収率はわずか1-2%でしたが、油と一緒に食べると30-50%に増加しました。
腸管細胞への取り込み
β-カロテンが腸管細胞に取り込まれるメカニズムは、まだ完全には解明されていませんが、以下のトランスポーターが関与していると考えられています。
- SR-BI(Scavenger Receptor class B type I):主要な取り込み経路
- CD36:脂肪酸とともにβ-カロテンも輸送
- 受動拡散:濃度勾配に従って細胞膜を通過
β-カロテンのビタミンAへの変換
中心切断:BCO1酵素
腸管細胞の細胞質には、「β-カロテン15,15′-モノオキシゲナーゼ(BCO1、β-carotene 15,15′-monooxygenase)」という酵素があります。この酵素が、β-カロテンをビタミンAに変換する主役です。
BCO1の働き:
- BCO1が、β-カロテンの中央の二重結合(15位と15’位の間)を認識する
- 酵素が酸素分子(O₂)を活性化する
- 活性化された酸素が、15-15’二重結合を攻撃して切断する
- 2分子のレチナール(ビタミンAアルデヒド)が生成される
反応式:β-カロテン(C₄₀H₅₆)+ O₂ → 2 レチナール(C₂₀H₂₈O)
この反応は「中心切断(central cleavage)」と呼ばれ、β-カロテンから最も効率的にビタミンAを得る方法です。
BCO1の特徴
BCO1は、以下のような特徴を持っています。
- 基質特異性:β-カロテンに対する親和性が最も高いが、α-カロテン、β-クリプトキサンチンも切断できる
- 補因子:鉄(Fe²⁺)を含む酵素で、鉄がないと機能しない
- 発現場所:主に小腸、肝臓、腎臓、精巣、網膜色素上皮
- 調節:ビタミンAが十分なときは発現が低下し、不足しているときは発現が増加する
偏心切断:BCO2酵素
BCO1とは別に、「β-カロテン9′,10′-ジオキシゲナーゼ(BCO2)」という酵素も存在します。BCO2は、β-カロテンを中央ではなく、9’位と10’位で切断します。
反応:β-カロテン + O₂ → β-アポ-10′-カロテナール + β-イオノン
この「偏心切断(eccentric cleavage)」では、ビタミンAは効率的には生成されません。BCO2の主な役割は、過剰なβ-カロテンを分解して、濃度を調節することと考えられています。
レチナールからレチノールへ
レチナール還元酵素
BCO1によって生成されたレチナール(ビタミンAアルデヒド)は、「レチナール還元酵素(Retinaldehyde reductase)」によって、レチノール(ビタミンAアルコール)に還元されます。
反応:レチナール + NADPH + H⁺ → レチノール + NADP⁺
この反応を触媒する酵素には、複数のアイソフォームがあります。
- RDH12(Retinol dehydrogenase 12):小腸で主に働く
- DHRS9(Dehydrogenase/reductase 9):肝臓や他の組織で働く
この還元反応は可逆的です。つまり、レチノールは再びレチナールに酸化できます。これは、ビタミンAが必要に応じて異なる形態(レチノール、レチナール、レチノイン酸)に変換できる柔軟性を与えています。
細胞内レチノール結合タンパク質(CRBP-II)
小腸の腸管細胞では、レチノールは「CRBP-II(Cellular Retinol-Binding Protein II)」というタンパク質に結合します。CRBP-IIは、小腸に特異的に発現している結合タンパク質で、レチノールを安定化し、次のステップである再エステル化を促進します。
レチノールの再エステル化と吸収
LRAT酵素による再エステル化
腸管細胞内のレチノールは、「レシチン:レチノール アシルトランスフェラーゼ(LRAT、Lecithin:Retinol Acyltransferase)」という酵素によって、再び脂肪酸と結合します。
反応:レチノール + レシチン → レチニルエステル + リゾレシチン
主に生成されるのは、「パルミチン酸レチニル」です。パルミチン酸は、最も一般的な飽和脂肪酸(C16)です。
なぜ再エステル化するのでしょうか。理由は以下の通りです。
- 安定性:レチニルエステルは、レチノールより酸化されにくく、安定です
- カイロミクロンへの組み込み:レチニルエステルは疎水性が高く、カイロミクロン(脂質を運ぶリポタンパク質)に効率的に組み込まれます
- 肝臓での貯蔵:肝臓でもレチニルエステルの形で貯蔵されます
カイロミクロンへの組み込み
レチニルエステルは、中性脂肪、リン脂質、コレステロール、アポリポタンパク質とともに、「カイロミクロン」という大きな脂質輸送粒子に組み込まれます。
カイロミクロンは、腸管細胞の基底側膜(血液側の膜)から、リンパ管に放出されます。リンパ管を経由して、最終的に血液中(胸管を通じて鎖骨下静脈)に入ります。
このルートは、他の脂溶性ビタミン(D、E、K)や脂質と同じです。つまり、β-カロテン由来のビタミンAは、一度も門脈(肝臓に直接行く血管)を通らず、リンパ系を経由して全身循環に入るのです。
肝臓での貯蔵
カイロミクロンレムナントの取り込み
血液中のカイロミクロンは、全身の組織で「リポタンパク質リパーゼ(LPL)」によって中性脂肪が分解されます。中性脂肪が減少したカイロミクロンは、「カイロミクロンレムナント(残骸)」と呼ばれます。
このカイロミクロンレムナントは、肝臓の肝細胞表面にある「LDL受容体関連タンパク質(LRP)」や「アポEレセプター」によって取り込まれます。
肝星細胞への移動
肝細胞に取り込まれたレチニルエステルは、「レチノール結合タンパク質(RBP)」に結合したレチノールの形で、「肝星細胞(hepatic stellate cell、旧名:伊東細胞)」に移動します。
肝星細胞は、肝臓の類洞(血管と肝細胞の間の隙間)に存在する細胞で、脂肪滴を多く含んでいます。この脂肪滴の中に、レチニルエステルが貯蔵されます。
肝星細胞は、体内のビタミンAの約80-90%を貯蔵しており、まさに「ビタミンA貯蔵庫」です。健康な成人では、300-900mg(1,000-3,000μmol)のビタミンAが肝臓に蓄えられています。
貯蔵量の目安
| 肝臓のビタミンA貯蔵量 | 評価 | 持続期間 |
|---|---|---|
| <20 μg/g肝臓 | 不足 | 数週間 |
| 20-100 μg/g肝臓 | 限界的 | 数ヶ月 |
| 100-300 μg/g肝臓 | 適正 | 6ヶ月-1年 |
| >300 μg/g肝臓 | 過剰のリスク | 数年 |
必要時の動員と全身への供給
レチニルエステルの加水分解
体がビタミンAを必要とすると、肝星細胞内のレチニルエステルが「レチニルエステル加水分解酵素」によって分解されます。
反応:レチニルエステル + H₂O → レチノール + 脂肪酸
RBPとの結合
遊離したレチノールは、肝細胞に移動し、そこで「レチノール結合タンパク質(RBP)」に結合します。RBPは、肝臓で合成される小さなタンパク質(分子量21kDa)で、レチノール1分子を特異的に結合します。
トランスサイレチンとの複合体形成
RBP-レチノール複合体は、さらに「トランスサイレチン(TTR、transthyretin)」という血漿タンパク質と結合します。TTRは4量体(4つのサブユニット)を形成し、4つのRBPを結合できます。
RBP-レチノール-TTR複合体 = (RBP-レチノール)₄-TTR
なぜTTRと結合するのでしょうか。RBP単独では分子量が小さすぎて(21kDa)、腎臓の糸球体を通過して尿中に失われてしまいます。TTRと結合することで、分子量が大きくなり(約80kDa)、腎臓での濾過を免れます。
全身への供給
RBP-レチノール-TTR複合体は、血液を通じて全身の組織に運ばれます。組織の細胞表面には、「STRA6(Stimulated by Retinoic Acid 6)」というレチノール輸送受容体があり、これが複合体を認識してレチノールを細胞内に取り込みます。
β-カロテン変換の調節
BCO1発現の調節
BCO1の発現は、体内のビタミンA状態によって調節されます。
- ビタミンA不足:BCO1の遺伝子発現が増加 → β-カロテンの変換が促進される
- ビタミンA十分:BCO1の遺伝子発現が減少 → β-カロテンの変換が抑制される
この調節は、「ISX(Intestine-Specific Homeobox)」という転写因子によって行われます。レチノイン酸(ビタミンAの活性型)がISXの発現を増加させ、ISXがBCO1の発現を抑制します。
つまり、「ビタミンAが十分にあるときは、β-カロテンをビタミンAに変換する必要がない」という合理的な調節です。
遺伝的多型
BCO1遺伝子には、個人差(多型)があり、β-カロテンからビタミンAへの変換効率に影響します。
研究では、BCO1遺伝子の特定の多型を持つ人は、β-カロテンからビタミンAへの変換効率が50-70%低下することが報告されています。このような人は、植物性食品だけではビタミンAが不足しやすく、動物性食品からレチノールを摂取する必要があります。
推定では、ヨーロッパ系の人口の約45%がこの低変換型の多型を持っているとされています。
β-カロテンとレチノールの比較
安全性
| 項目 | β-カロテン | レチノール |
|---|---|---|
| 過剰摂取のリスク | 低い(柑皮症のみ、無害) | 高い(催奇形性、肝障害) |
| 体内調節 | 変換が調節される | 吸収が調節されにくい |
| 妊娠中の安全性 | 安全 | 過剰で危険 |
効率性
| 項目 | β-カロテン | レチノール |
|---|---|---|
| 吸収率 | 5-50%(条件による) | 70-90% |
| 変換効率 | 約8-12%(1/12) | 不要(すでに活性型) |
| 総合効率 | 低い | 高い |
よくある質問
β-カロテンを効率的に吸収するにはどうすればいいですか?
以下の方法で吸収率が向上します:①油と一緒に摂る(オリーブオイル、ごま油など)、②加熱調理する(細胞壁が壊れて吸収しやすくなる)、③細かく刻む、すりおろす(同様の理由)。例えば、ニンジンジュースに少量のオリーブオイルを加える、ニンジンのきんぴら、カボチャの煮物などが効果的です。
β-カロテンのサプリメントは効果がありますか?
β-カロテンサプリメントは、ビタミンA不足の予防には効果的ですが、喫煙者では注意が必要です。大規模研究(CARET、ATBC研究)では、喫煙者が高用量のβ-カロテンサプリメント(20-30mg/日)を長期間摂取すると、肺がんのリスクが増加することが示されました。非喫煙者では問題ありませんが、喫煙者は食品からの摂取を優先すべきです。
なぜβ-カロテンを摂りすぎると肌が黄色くなるのですか?
β-カロテンを大量に摂取すると、体内で変換しきれなかったβ-カロテンが皮膚の脂肪組織に蓄積し、肌が黄色やオレンジ色になります(柑皮症)。これは、β-カロテンからビタミンAへの変換には限界があり、過剰分はそのまま蓄積されるためです。ただし、これは無害で、摂取を減らせば数週間で元に戻ります。
リコピンやルテインもビタミンAになりますか?
いいえ、リコピン(トマト)やルテイン(緑黄色野菜)は、β-イオノン環を持たないため、ビタミンAには変換できません。しかし、これらのカロテノイドは、強力な抗酸化作用を持ち、がん予防、心血管疾患予防、目の健康(黄斑変性症予防)などに有益です。
BCO1遺伝子の多型を検査できますか?
一部の遺伝子検査サービスでは、BCO1遺伝子の多型を調べることができます。ただし、検査結果が「低変換型」でも、動物性食品からレチノールを摂取すれば問題ありません。また、β-カロテンの抗酸化作用などの健康効果は、ビタミンA変換とは無関係に得られます。
まとめ
β-カロテンは植物が合成するカロテノイド色素で、2つのβ-イオノン環を持ち、2分子のビタミンAに変換できる構造をしています。小腸で油とともに胆汁酸ミセルに取り込まれ、SR-BIやCD36などの受容体を介して腸管細胞に吸収されます。細胞質でβ-カロテン15,15′-モノオキシゲナーゼ(BCO1)が中央の二重結合を酸素で切断し、2分子のレチナールを生成します。レチナールはレチナール還元酵素(RDH12)によりNADPHを用いてレチノールに還元され、CRBP-IIに結合して安定化されます。レチノールはLRAT酵素によりレシチンと反応してレチニルエステルに再エステル化され、カイロミクロンに組み込まれてリンパ管経由で血液に入ります。
肝臓ではカイロミクロンレムナントとして取り込まれ、肝星細胞にレチニルパルミチン酸エステルとして貯蔵されます。必要時に加水分解されてレチノールになり、RBPとTTRに結合して血液中を運ばれ、STRA6受容体を介して組織細胞に供給されます。BCO1の発現はビタミンA状態により調節され、不足時には増加、十分時には減少します。BCO1遺伝子の多型により変換効率に個人差があり、低変換型では動物性レチノールの摂取が重要です。β-カロテンの吸収率は油と一緒で30-50%、加熱調理で向上し、レチノールの吸収率70-90%と比べて低いですが、過剰摂取のリスクがなく体内で調節される安全性があります。
次に読むと理解が深まる記事
- 消化と吸収の仕組み – 脂溶性ビタミンの吸収経路
参考文献
- 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2025年版)
- von Lintig J. Provitamin A metabolism and functions in mammalian biology. Am J Clin Nutr, 2012
- Lietz G, et al. Single nucleotide polymorphisms upstream from the β-carotene 15,15′-monoxygenase gene influence provitamin A conversion efficiency in female volunteers. J Nutr, 2012
- Harrison EH. Mechanisms involved in the intestinal absorption of dietary vitamin A and provitamin A carotenoids. Biochim Biophys Acta, 2012
