成長期の子どもに必要なアミノ酸

「うちの子、背が伸びない」「好き嫌いが多くて心配」—子どもの成長を見守る親なら、こんな悩みを抱えることがあるかもしれません。子どもの成長には、タンパク質が欠かせませんが、中でも「アルギニン」というアミノ酸が、特に重要な役割を果たします。

アルギニンは、大人の体内では作ることができるアミノ酸です。しかし、成長期の子どもは、骨や筋肉を急速に作るため、大量のアルギニンが必要になります。そのため、体内で作る量だけでは足りず、食事から摂取する必要があります。このようなアミノ酸を「条件的必須アミノ酸」と呼びます。

この記事では、条件的必須アミノ酸とは何か、なぜ子どもにアルギニンが必要なのか、他の条件的必須アミノ酸、どんな食品に含まれているのか、不足するとどうなるのかを、わかりやすく解説します。

目次
  1. 条件的必須アミノ酸とは
  2. アルギニンとは
  3. なぜ子どもにアルギニンが必要なのか
  4. アルギニンの他の働き
  5. グルタミン:激しい運動や感染症で必要
  6. システイン:肝臓の働きが悪いと必要
  7. チロシン:特定の病気で必要
  8. プロリンとグリシン:赤ちゃんに必要
  9. アルギニンが豊富な食品
  10. アルギニンサプリメント
  11. 条件的必須アミノ酸が不足するとどうなるか
  12. よくある質問
  13. まとめ
  14. 参考文献

条件的必須アミノ酸とは

必須アミノ酸と非必須アミノ酸の復習

まず、アミノ酸の基本を復習しましょう。

アミノ酸は、全部で20種類あり、以下の2つに分類されます。

  • 必須アミノ酸(9種類):体内で合成できないため、食事から摂取しなければならない
  • 非必須アミノ酸(11種類):体内で合成できる

条件的必須アミノ酸の定義

「条件的必須アミノ酸(Conditionally essential amino acids)」とは、通常は体内で合成できますが、特定の状況下では、必要な量を合成できなくなり、食事から摂取する必要が出るアミノ酸のことです。

「特定の状況」とは、以下のようなものです。

  • 成長期(乳幼児、子ども、思春期)
  • 妊娠・授乳期
  • 激しい運動
  • 感染症
  • 手術後
  • 火傷
  • 特定の病気

主な条件的必須アミノ酸

以下の6つが、条件的必須アミノ酸として知られています。

  1. アルギニン:成長期の子どもに必要
  2. グルタミン:激しい運動、感染症、手術後に必要
  3. システイン:肝臓の働きが悪いときに必要
  4. チロシン:特定の病気で必要
  5. プロリン:赤ちゃんに必要
  6. グリシン:赤ちゃんに必要

アルギニンとは

アルギニンの化学構造

アルギニン(Arginine)は、「塩基性アミノ酸」の一つで、側鎖に「グアニジノ基」という構造を持っています。この構造が、アルギニンの特別な働きを生み出します。

化学式:C₆H₁₄N₄O₂

アルギニンの体内での合成

アルギニンは、主に以下の経路で合成されます。

  1. 尿素サイクル:肝臓で、アンモニアを解毒する過程で、アルギニンが作られる
  2. シトルリンから:腎臓で、シトルリンというアミノ酸から、アルギニンが作られる

大人では、この合成経路で、必要な量のアルギニンを作ることができます。

なぜ子どもにアルギニンが必要なのか

理由1:成長ホルモンの分泌

アルギニンは、「成長ホルモン」の分泌を促進します。成長ホルモンは、脳下垂体から分泌されるホルモンで、以下のような働きをします。

  • 骨を伸ばす(骨端線での軟骨細胞の増殖)
  • 筋肉を作る(タンパク質合成の促進)
  • 脂肪を分解する
  • 免疫機能を高める

アルギニンが、どのようにして成長ホルモンの分泌を促進するのか、そのメカニズムは完全には解明されていませんが、視床下部からの成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)の分泌を刺激すると考えられています。

理由2:細胞分裂の材料

成長期の子どもは、細胞が活発に分裂して、骨や筋肉、臓器が大きくなります。細胞分裂には、大量のタンパク質合成が必要で、そのためには、すべてのアミノ酸が必要です。

アルギニンは、特に、「ポリアミン」という物質の材料になります。ポリアミンは、細胞分裂やDNA合成に必須の物質です。

理由3:一酸化窒素(NO)の生成

アルギニンは、「一酸化窒素(NO)」の材料です。NOは、血管を拡張して、血流を増やします。成長期の子どもは、全身の組織に、酸素や栄養素を届けるために、良好な血流が必要です。

理由4:免疫機能

アルギニンは、免疫細胞(Tリンパ球、マクロファージなど)の働きを高めます。子どもは、免疫系が発達途中で、感染症にかかりやすいため、アルギニンが重要です。

合成量が追いつかない

子どもは、これらすべての用途にアルギニンが必要なため、体内で作る量だけでは足りません。そのため、食事から摂取する必要があります。

研究によると、乳幼児や思春期の子どもは、成人の約2-3倍のアルギニンが必要とされています。

アルギニンの他の働き

尿素サイクル

アルギニンは、「尿素サイクル」という、アンモニアを解毒する経路の一部です。タンパク質が代謝されると、有害なアンモニアができます。肝臓の尿素サイクルで、アンモニアは無害な「尿素」に変換され、腎臓から尿として排泄されます。

尿素サイクルの流れ(簡略版):
アンモニア → カルバモイルリン酸 → シトルリン → アルギニン → 尿素 + オルニチン

クレアチンの合成

アルギニンは、「クレアチン」の材料の一つです。クレアチンは、筋肉のエネルギー源(クレアチンリン酸)の材料で、瞬発的な運動に重要です。

クレアチン合成:
アルギニン + グリシン → グアニジノ酢酸 → クレアチン

グルタミン:激しい運動や感染症で必要

グルタミンの役割

グルタミンは、体内で最も多いアミノ酸で、筋肉の約40-60%を占めています。免疫細胞と小腸の細胞の主なエネルギー源です。

なぜ条件的必須になるのか

激しい運動をしたり、風邪をひいたり、手術を受けたりすると、免疫細胞と小腸の細胞が、大量のグルタミンを消費します。このとき、筋肉から血液にグルタミンが放出されますが、それでも足りなくなります。

グルタミンが不足すると、免疫力が低下し、感染症にかかりやすくなります。

システイン:肝臓の働きが悪いと必要

システインの役割

システイン(Cysteine)は、「含硫アミノ酸」で、体内の主要な抗酸化物質「グルタチオン」の材料です。グルタチオンは、活性酸素を消去して、細胞を守ります。

システインの合成

システインは、「メチオニン」という必須アミノ酸から作られます。

メチオニン → ホモシステイン → システイン

なぜ条件的必須になるのか

肝臓の働きが悪くなると、メチオニンからシステインへの変換がうまくいかなくなります。また、未熟児や早産児は、この変換酵素の活性が低いため、システインを食事から摂る必要があります。

チロシン:特定の病気で必要

チロシンの役割

チロシン(Tyrosine)は、以下の物質の材料です。

  • ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン(神経伝達物質・ホルモン)
  • 甲状腺ホルモン
  • メラニン(皮膚の色素)

チロシンの合成

チロシンは、「フェニルアラニン」という必須アミノ酸から作られます。

フェニルアラニン → チロシン

なぜ条件的必須になるのか

「フェニルケトン尿症(PKU)」という遺伝性の病気では、フェニルアラニンをチロシンに変換する酵素が欠損しています。このため、チロシンを食事から摂る必要があります。

プロリンとグリシン:赤ちゃんに必要

プロリンの役割

プロリン(Proline)は、「コラーゲン」の材料です。コラーゲンは、皮膚、骨、軟骨、腱などの結合組織を構成する、最も多いタンパク質です。

グリシンの役割

グリシン(Glycine)も、コラーゲンの主要な成分です。コラーゲンの約33%が、グリシンです。また、グリシンは、「ヘム」(ヘモグロビンの一部)や「クレアチン」の材料でもあります。

なぜ条件的必須になるのか

未熟児や早産児は、プロリンとグリシンを作る機能が未発達です。そのため、母乳やミルクから摂る必要があります。

アルギニンが豊富な食品

食品中のアルギニン含有量

食品 1食分の量 アルギニン含有量(mg)
鶏むね肉 100g 約1,900
豚ロース 100g 約1,500
牛もも肉 100g 約1,400
マグロ 100g 約1,300
サケ 100g 約1,200
1個(50g) 約400
牛乳 コップ1杯(200mL) 約200
大豆 100g(乾燥) 約2,800
納豆 1パック(50g) 約500
アーモンド 20粒(25g) 約650
クルミ 10粒(30g) 約700

子どもへの推奨量

子どものアルギニンの推奨量は、明確には定められていませんが、研究では、体重1kgあたり100-200mg/日が目安とされています。

例:体重30kgの子ども → 3,000-6,000mg/日

これは、鶏むね肉150-300g程度に相当します。

アルギニンサプリメント

子どもへの使用

一般的に、成長期の子どもは、バランスの良い食事から、十分なアルギニンを摂取できます。サプリメントは、必要ありません。

ただし、以下のような場合は、医師の指導のもとで、サプリメントが使われることがあります。

  • 低身長の治療
  • 未熟児
  • 特定の代謝異常

大人への使用

大人でも、以下のような目的で、アルギニンサプリメントが使われることがあります。

  • 血流改善(高血圧、動脈硬化の予防)
  • 運動パフォーマンスの向上
  • 創傷治癒の促進

用量:1日3-6g

条件的必須アミノ酸が不足するとどうなるか

アルギニン不足

  • 成長遅延(身長・体重の増加が遅れる)
  • 免疫機能低下
  • 創傷治癒の遅れ

グルタミン不足

  • 免疫力低下(風邪をひきやすい)
  • 筋肉の分解が進む
  • 腸の透過性が高まる(リーキーガット)

システイン不足

  • 抗酸化能力の低下
  • 肝臓の解毒機能の低下
  • 皮膚や毛髪の異常

よくある質問

子どもにプロテインパウダーを飲ませても良いですか?

基本的には、子どもは、普通の食事から十分なタンパク質を摂取できる場合はプロテインパウダーは必要ありません。ただし、激しいスポーツをしている子どもや、食が細い子どもで、医師や栄養士が推奨する場合は、使用しても良いでしょう。その場合は、子ども用のプロテインを選び、用法・用量を守ってください。

アルギニンのサプリメントで、身長が伸びますか?

アルギニンは成長ホルモンの分泌を促進しますが、サプリメントだけで身長が伸びるわけではありません。身長の伸びには、遺伝、栄養全体、睡眠、運動など、多くの要因が関わります。まずは、バランスの良い食事、十分な睡眠、適度な運動を心がけてください。

大人も条件的必須アミノ酸を摂る必要がありますか?

大人でも、激しい運動、感染症、手術後、ストレスが多い時期などは、条件的必須アミノ酸の需要が増えます。特に、グルタミンはアスリートや免疫力が低下している人に推奨されます。

条件的必須アミノ酸を過剰に摂ると危険ですか?

通常の食事から摂取する範囲では、問題ありません。ただし、サプリメントで高用量を長期間摂取すると、腎臓や肝臓に負担がかかる可能性があります。持病がある人は、医師に相談してください。

まとめ

条件的必須アミノ酸は普段は体内で作れますが特定の状況で必要な量を作れなくなり食事から摂る必要が出るアミノ酸です。アルギニンは子どもの成長期に骨や筋肉を急速に作るため大量に必要ですが体内で作る量が足りず、成長ホルモン分泌を促進して骨を伸ばし筋肉を作ります。一酸化窒素を生成して血管を拡張し全身に酸素と栄養を届け、ポリアミンの材料として細胞分裂を支え免疫細胞の働きを高めます。子どもは成人の2-3倍のアルギニンが必要で体重1kgあたり100-200mg/日が目安です。

グルタミンは激しい運動や風邪のときに免疫細胞が大量に使い筋肉から放出されて不足します。システインは肝臓の働きが悪いとメチオニンから作れなくなり、チロシンはフェニルケトン尿症という病気でフェニルアラニンから作れない人がいます。プロリンとグリシンは赤ちゃんが作る機能が未発達なため母乳やミルクから摂る必要があります。鶏むね肉100gに約1,900mg、大豆100gに約2,800mg、納豆1パックに約500mgのアルギニンが含まれます。

バランスの良い食事から十分摂取でき子どもにサプリメントは通常不要ですが、低身長治療や未熟児には医師指導下で使われることがあります。不足すると成長遅延、免疫機能低下、創傷治癒の遅れが起こり、身長の伸びには遺伝、栄養全体、睡眠、運動など多くの要因が関わるためサプリメントだけでは伸びません。大人も激しい運動や感染症時は需要が増え、通常の食事範囲では問題ありませんがサプリメント高用量の長期摂取は腎臓や肝臓に負担がかかる可能性があります。

参考文献

  1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2025年版)
  2. Nelson DL, Cox MM. Lehninger Principles of Biochemistry. 8th ed. W.H. Freeman, 2021
  3. Murray RK, et al. Harper’s Illustrated Biochemistry. 32nd ed. McGraw-Hill Education, 2023
  4. Hans-Konrad Biesalski, et al. カラーアトラス栄養学. 医学書院
  5. Wu G, et al. Arginine metabolism and nutrition in growth, health and disease. Amino Acids, 2009
  6. Reeds PJ. Dispensable and indispensable amino acids for humans. J Nutr, 2000
水流琴音(つることね)

管理栄養士|分子栄養学と料理を理論から実践に落とし込んだおうちごはんが得意。栄養のいろはを詰めこんだ理系のごはん作りが好き。

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