鉄の貯蔵と運搬|フェリチンとトランスフェリンの働き

前回までの記事で、鉄が小腸で吸収され、血液を経由して全身に運ばれる仕組みを学びました。しかし、体内の鉄はどこに、どのような形で蓄えられているのでしょうか。そして、必要なときにどのようにして取り出され、使われるのでしょうか。今回は、鉄の「貯蔵と運搬」に焦点を当てて、その巧妙な仕組みを詳しく解説します。

体内の鉄は、約60-70%がヘモグロビン(赤血球)に、約10%がミオグロビン(筋肉)に、そして約20-30%が「貯蔵鉄」として肝臓、脾臓、骨髄に蓄えられています。この貯蔵鉄は、「フェリチン」というタンパク質に包まれて保管されており、必要に応じて血液中に放出されます。血液中では、「トランスフェリン」というタンパク質が鉄を運搬車のように全身に運び、各細胞の「トランスフェリン受容体」が鉄を受け取ります。

この記事では、フェリチンがどのように鉄を安全に貯蔵するのか、トランスフェリンがどのように鉄を運搬するのか、そして体内の鉄レベルに応じてこれらのタンパク質がどのように調節されるのかを、分子レベルから詳しく解説します。

体内の鉄分布

鉄の保管場所

成人の体内には、約3-5gの鉄が存在します(男性約4g、女性約2.5g)。この鉄は、以下のように分布しています。

鉄の形態 場所 体内鉄の割合 量(成人男性)
機能鉄(ヘモグロビン) 赤血球 60-70% 約2.5-3g
機能鉄(ミオグロビン) 筋肉 約10% 約300-400mg
貯蔵鉄(フェリチン) 肝臓、脾臓、骨髄 20-30% 約1g
貯蔵鉄(ヘモジデリン) 肝臓、脾臓 数% 約100-200mg
輸送鉄(トランスフェリン) 血液 約0.1% 約3-4mg
組織鉄(酵素など) 全身の細胞 約1% 約30-50mg

つまり、体内の鉄の約70-80%は「すぐに使える形」(ヘモグロビン、ミオグロビン)で存在し、約20-30%は「貯金」のように貯蔵されており、残りはわずかながら血液中を運搬されたり、酵素の材料として使われたりしています。

なぜ鉄を貯蔵する必要があるのか

鉄を貯蔵する理由は、以下の通りです。

  1. 供給の不安定性:食事からの鉄摂取量は日によって変動します。貯蔵鉄があれば、一時的に鉄が不足しても対応できます
  2. 需要の変動:成長期、妊娠、出血、激しい運動などで、鉄の需要が急増することがあります。貯蔵鉄を動員することで、急な需要に対応できます
  3. 鉄の毒性:遊離した鉄(Fe²⁺、Fe³⁺)は、活性酸素を発生させて細胞を傷つけます。フェリチンに貯蔵することで、鉄を無毒化できます
  4. 細菌からの防御:細菌は増殖に鉄を必要とします。鉄を貯蔵しておくことで、血液中の遊離鉄を減らし、細菌の増殖を抑えることができます

フェリチン:鉄の貯蔵庫

フェリチンの構造

フェリチンは、鉄を安全に貯蔵する「ナノサイズの金庫」のようなタンパク質です。フェリチンは、24個のサブユニット(タンパク質の構成単位)が球状に組み立てられた構造をしており、中央に空洞があります。この空洞に、最大4,500個もの鉄原子を貯蔵できます。

フェリチンのサイズは、直径約12nm(ナノメートル、1nmは100万分の1mm)で、内部の空洞は直径約8nmです。この微小な空間に、大量の鉄を効率的に詰め込むことができるのです。

フェリチンのサブユニット

フェリチンのサブユニットには、2種類あります。

サブユニット 分子量 主な機能 多い組織
H鎖(Heavy chain) 約21kDa 鉄の酸化(Fe²⁺ → Fe³⁺)
フェロオキシダーゼ活性
心臓、脳、腎臓
L鎖(Light chain) 約19kDa 鉄の核形成と貯蔵の安定化 肝臓、脾臓

H鎖とL鎖の比率は、組織によって異なります。心臓や脳では H鎖が多く、肝臓や脾臓では L鎖が多い傾向があります。H鎖が多いと鉄の取り込みが速く、L鎖が多いと鉄の貯蔵量が多くなります。

フェリチンに鉄が貯蔵される仕組み

鉄がフェリチンに貯蔵されるプロセスは、以下の通りです。

  1. Fe²⁺がフェリチンに入る:細胞内の Fe²⁺(二価鉄)が、フェリチンの表面にある小さな穴(チャネル)を通って、内部の空洞に入ります
  2. Fe²⁺が Fe³⁺に酸化される:H鎖のフェロオキシダーゼ活性により、Fe²⁺ が Fe³⁺(三価鉄)に酸化されます。この反応で酸素が使われます
    反応:4 Fe²⁺ + O₂ + 6 H₂O → 4 Fe³⁺ + 8 OH⁻
  3. Fe³⁺が鉱物の形で沈殿する:Fe³⁺は水酸化鉄やリン酸鉄の形で、フェリチン内部に鉱物の結晶として沈殿します。この形は非常に安定で、活性酸素を発生させません
  4. 最大4,500個の鉄原子を貯蔵:フェリチン1分子は、平均で約2,000-3,000個、最大で4,500個の鉄原子を貯蔵できます

つまり、フェリチンは鉄を「毒性のある形(Fe²⁺)」から「安全な形(Fe³⁺の鉱物)」に変換して保管する、巧妙なシステムなのです。

フェリチンから鉄を取り出す仕組み

貯蔵された鉄を使うときは、逆のプロセスが起こります。

  1. Fe³⁺が Fe²⁺に還元される:フェリチン内部の Fe³⁺が、何らかの還元剤(NADH、フラビンなど)によって Fe²⁺に還元されます
  2. Fe²⁺がフェリチンから出る:Fe²⁺は水に溶けやすいので、チャネルを通ってフェリチンの外に出ます
  3. Fe²⁺が利用される:細胞質に出た Fe²⁺は、ヘム合成、酵素の材料、またはフェロポルチンを通じて血液中への放出に使われます

ただし、フェリチンからの鉄の放出メカニズムは、まだ完全には解明されていません。最近の研究では、「核内受容体コアクチベーター4(NCOA4)」というタンパク質が、フェリチンを分解して鉄を放出する「フェリチノファジー(ferritinophagy)」というプロセスが報告されています。

ヘモジデリン:予備の貯蔵庫

鉄が過剰になると、フェリチンだけでは貯蔵しきれなくなり、「ヘモジデリン(Hemosiderin)」という形でも貯蔵されます。ヘモジデリンは、フェリチンが部分的に分解されて凝集した不溶性の鉄の塊で、主に肝臓と脾臓に蓄積します。

ヘモジデリンは、フェリチンより鉄を取り出しにくいため、「長期保存用の予備の貯蔵庫」のようなものです。正常な状態では、体内の鉄の数%程度ですが、鉄過剰症では大量に蓄積します。

血清フェリチン:鉄貯蔵量のバロメーター

フェリチンは主に細胞内に存在しますが、少量が血液中にも放出されます。この「血清フェリチン」の濃度は、体内の鉄貯蔵量をほぼ正確に反映するため、血液検査で鉄の状態を評価する重要な指標となります。

血清フェリチン濃度 評価
<15 ng/mL 鉄欠乏(貯蔵鉄がほぼ枯渇)
15-30 ng/mL 鉄欠乏の可能性(潜在的鉄欠乏)
30-300 ng/mL 正常
300-1,000 ng/mL 鉄貯蔵増加(または炎症)
>1,000 ng/mL 鉄過剰症の可能性

ただし、フェリチンは「急性期反応タンパク質」でもあり、炎症があると鉄の状態に関わらず上昇します。そのため、炎症がある場合(CRPが高い場合など)は、フェリチンだけでは鉄の状態を正確に評価できません。

トランスフェリン:鉄の運搬車

トランスフェリンの構造

トランスフェリンは、肝臓で合成される糖タンパク質で、分子量は約80kDaです。トランスフェリン1分子は、2個の Fe³⁺(三価鉄)を結合できます。トランスフェリンは、2つのローブ(葉)構造を持ち、それぞれに1個ずつ鉄結合部位があります。

トランスフェリンが鉄を結合するには、炭酸イオン(CO₃²⁻)も必要です。鉄と炭酸イオンが協調して結合することで、安定な複合体が形成されます。

トランスフェリンの役割

トランスフェリンの主な役割は、以下の通りです。

  1. 鉄を全身に運ぶ:小腸から吸収された鉄、マクロファージから放出された鉄、肝臓から動員された鉄を、血液中を循環して全身の細胞に届けます
  2. 鉄を可溶化する:Fe³⁺は水に溶けにくいですが、トランスフェリンに結合することで、血液中に溶けた状態を保てます
  3. 鉄の毒性を防ぐ:遊離した鉄は、フェントン反応によってヒドロキシラジカル(•OH)を発生させ、細胞を傷つけます。トランスフェリンに結合することで、この反応が抑えられます
  4. 細菌から鉄を守る:細菌は増殖に鉄を必要としますが、トランスフェリンに結合した鉄は細菌が利用できません。これは「栄養免疫(nutritional immunity)」と呼ばれる防御メカニズムです

トランスフェリンの飽和度

血液中のトランスフェリンのうち、どれくらいが鉄で満たされているかを示す指標が「トランスフェリン飽和度(Transferrin saturation、TSAT)」です。

計算式:TSAT(%)= 血清鉄(μg/dL)÷ TIBC(μg/dL)× 100

TIBC(Total Iron Binding Capacity、総鉄結合能)は、血液中のトランスフェリンが結合できる鉄の最大量です。

トランスフェリン飽和度 評価
<15% 鉄欠乏(トランスフェリンがほとんど空っぽ)
15-20% 鉄不足の可能性
20-50% 正常
50-60% 鉄過剰の可能性
>60% 鉄過剰(トランスフェリンが満杯、遊離鉄が増加)

トランスフェリン飽和度が60%を超えると、トランスフェリンに結合できない「遊離鉄」が血液中に増加し、臓器に沈着して障害を引き起こします(鉄過剰症)。

トランスフェリン受容体:鉄の受け取り窓口

細胞がトランスフェリンから鉄を受け取るには、「トランスフェリン受容体(Transferrin receptor、TfR)」が必要です。トランスフェリン受容体は、細胞膜に存在する膜タンパク質で、特に赤芽球(赤血球の前駆細胞)に多く発現しています。

トランスフェリン受容体には、2種類あります。

受容体 発現場所 役割
TfR1 すべての細胞(特に赤芽球) 細胞内への鉄取り込み
細胞内の鉄レベルで発現調節
TfR2 主に肝臓 鉄センサー
ヘプシジン産生の調節

TfR1は、細胞内の鉄が不足すると発現が増加し、鉄の取り込みを促進します。逆に、鉄が十分だと発現が減少します。この調節は、「IRP(Iron Regulatory Protein、鉄調節タンパク質)」というタンパク質によって行われます(後述)。

血清可溶性トランスフェリン受容体(sTfR)

トランスフェリン受容体の一部は、細胞膜から切り離されて血液中に放出されます。これを「血清可溶性トランスフェリン受容体(soluble Transferrin receptor、sTfR)」と呼びます。

sTfRの濃度は、体内の鉄欠乏の程度を反映します。

  • 鉄欠乏性貧血:sTfR↑↑(赤芽球がもっと鉄を取り込もうとして、TfR1の発現が増加)
  • 炎症性貧血:sTfR→(正常)

つまり、sTfRは、フェリチンと異なり、炎症の影響を受けにくいため、鉄欠乏性貧血と炎症性貧血を鑑別するのに有用です。

細胞内での鉄調節:IRPシステム

IRP(Iron Regulatory Protein)とは

細胞内の鉄レベルは、「IRP(Iron Regulatory Protein、鉄調節タンパク質)」というタンパク質によって厳密に調節されています。IRPには、IRP1とIRP2の2種類があります。

IRPは、特定のmRNA(タンパク質の設計図)の「IRE(Iron Responsive Element、鉄応答配列)」という部分に結合して、タンパク質の合成を調節します。

鉄が不足しているとき

細胞内の鉄が不足すると、以下のことが起こります。

  1. IRPが活性化される:IRPがmRNAのIREに結合できる状態になります
  2. トランスフェリン受容体(TfR1)の発現が増加:IRP-1がTfR1のmRNAの3’末端のIREに結合すると、mRNAが安定化され、分解されにくくなります。その結果、TfR1がたくさん作られ、細胞は血液中からもっと鉄を取り込めるようになります
  3. フェリチンの発現が抑制:IRPがフェリチンのmRNAの5’末端のIREに結合すると、翻訳(タンパク質合成)が阻害されます。その結果、フェリチンがあまり作られず、鉄が貯蔵されずに利用されます
  4. フェロポルチンの発現が抑制:フェリチンと同様に、フェロポルチンの合成も抑制され、鉄が細胞外に放出されにくくなります

つまり、「鉄が足りないときは、もっと取り込んで、貯蔵せず、放出もしない」という戦略です。

鉄が十分にあるとき

細胞内の鉄が十分にあると、以下のことが起こります。

  1. IRPが不活性化される:IRPがmRNAのIREに結合できなくなります
  2. トランスフェリン受容体(TfR1)の発現が減少:TfR1のmRNAが不安定になり、分解されやすくなります。その結果、TfR1が減少し、細胞への鉄の取り込みが減ります
  3. フェリチンの発現が増加:フェリチンのmRNAの翻訳が促進され、フェリチンがたくさん作られます。その結果、過剰な鉄が安全に貯蔵されます
  4. フェロポルチンの発現が増加:フェロポルチンの合成も促進され、余った鉄が細胞外に放出されます

つまり、「鉄が十分なときは、取り込みを減らして、余った分は貯蔵するか放出する」という戦略です。

このIRPシステムにより、細胞は自分の鉄レベルを常にモニターし、適切に調節しているのです。

鉄の貯蔵と運搬の協調

肝臓:鉄の中央銀行

肝臓は、体内で最大の鉄貯蔵器官で、約1gの鉄を蓄えています(成人男性の場合)。肝臓の役割は、まさに「中央銀行」のようなものです。

  • 預金:小腸から吸収された鉄、マクロファージから回収された鉄の一部を、フェリチンとして貯蔵します
  • 引き出し:体内で鉄が不足すると(貧血、妊娠、成長期など)、貯蔵鉄を動員して血液中に放出します
  • 調節:肝臓はヘプシジンを産生し、全身の鉄の吸収と放出を調節します

脾臓:鉄のリサイクル工場

脾臓は、老化した赤血球を分解し、鉄を回収する「リサイクル工場」です。脾臓のマクロファージは、1日に約2000億個の赤血球を貪食し、約20mgの鉄を回収します。この鉄の約90%は、すぐに血液中に放出されて骨髄に運ばれ、新しい赤血球の合成に再利用されます。残りの約10%は、脾臓や肝臓にフェリチンとして貯蔵されます。

骨髄:鉄の最大消費地

骨髄は、1日に約20-25mgの鉄を消費する、体内で最大の「鉄の消費地」です。赤芽球は、トランスフェリン受容体を通じて血液中のトランスフェリンから鉄を取り込み、ヘモグロビンを合成します。骨髄での鉄の需要が高いときは、肝臓や脾臓の貯蔵鉄が動員されます。

鉄の1日の動き

健康な成人の鉄の1日の動きを、まとめてみましょう。

鉄の流れ 量(mg/日)
小腸から吸収 1-2
マクロファージから血液へ放出(再利用) 18-20
肝臓から血液へ放出(動員) 1-2
血液中に供給される鉄の合計 20-24
骨髄で赤血球合成に使用 20-22
その他の組織で使用 1-2
便・尿・皮膚などから喪失 1-2

つまり、1日に約20-24mgの鉄が血液中を循環していますが、そのうち新たに吸収される鉄はわずか1-2mgで、約90%は再利用されているのです。この効率的なリサイクルシステムにより、私たちは少ない食事摂取でも鉄の需要を満たすことができます。

鉄貯蔵の異常と疾患

鉄欠乏の進行

鉄欠乏は、段階的に進行します。

  1. 前潜在性鉄欠乏:貯蔵鉄(フェリチン)が減少し始めるが、血清鉄とヘモグロビンは正常。自覚症状なし
  2. 潜在性鉄欠乏:貯蔵鉄が枯渇(フェリチン<15 ng/mL)、血清鉄が低下し始める。軽い疲労感、運動能力低下
  3. 鉄欠乏性赤血球生成:血清鉄が大幅に低下、sTfRが上昇、骨髄での赤血球産生が影響を受けるが、まだ貧血ではない。疲労感、息切れ
  4. 鉄欠乏性貧血:ヘモグロビンが低下(男性<13 g/dL、女性<12 g/dL)。顕著な疲労感、動悸、めまい、爪の変形

鉄過剰症の進行

鉄過剰も、段階的に進行します。

  1. 軽度鉄過剰:血清フェリチン300-1,000 ng/mL、トランスフェリン飽和度>50%。自覚症状なし
  2. 中等度鉄過剰:血清フェリチン1,000-2,000 ng/mL。肝臓に鉄が蓄積し始める。軽い疲労感、関節痛
  3. 重度鉄過剰(ヘモクロマトーシス):血清フェリチン>2,000 ng/mL、トランスフェリン飽和度>60%。肝硬変、心筋症、糖尿病、皮膚の色素沈着

よくある質問

フェリチンが高いのは鉄過剰ですか?

必ずしもそうではありません。フェリチンは「急性期反応タンパク質」でもあるため、炎症、感染症、肝疾患、がんなどでも上昇します。鉄過剰かどうかを判断するには、フェリチンだけでなく、血清鉄、トランスフェリン飽和度、CRP(炎症マーカー)も併せて評価する必要があります。トランスフェリン飽和度が60%以上の場合は、鉄過剰の可能性が高くなります。

フェリチンとヘモグロビンの違いは何ですか?

フェリチンは「貯蔵鉄」を反映し、ヘモグロビンは「機能鉄」を反映します。鉄欠乏が進行すると、まずフェリチンが低下し、次に血清鉄が低下し、最後にヘモグロビンが低下します。つまり、フェリチンは「早期の鉄欠乏」を検出でき、ヘモグロビンは「貧血」を検出します。貧血になる前に鉄欠乏を発見するには、フェリチンの測定が重要です。

トランスフェリンが低いとどうなりますか?

トランスフェリンが低下すると、血液中で鉄を運ぶ能力が低下します。トランスフェリンが低下する原因は、①栄養不良(タンパク質不足)、②肝疾患(肝臓で合成されない)、③炎症(炎症性サイトカインがトランスフェリンの合成を抑制)などです。トランスフェリンが低いと、TIBCも低下し、トランスフェリン飽和度は正常または上昇します。これは、炎症性貧血の特徴です。

妊娠中にフェリチンが低下するのはなぜですか?

妊娠中は、以下の理由でフェリチンが低下します:①胎児の成長に鉄が必要(妊娠後期には1日約4-5mg)、②母体の血液量が増加し、ヘモグロビン合成に鉄が必要、③出産時の出血で鉄が失われる(約200-500mg)。そのため、妊娠中は貯蔵鉄が動員され、フェリチンが低下します。妊娠初期にフェリチンが30 ng/mL以上あれば、後期まで鉄欠乏にならない可能性が高いですが、15 ng/mL以下では鉄剤の補給が推奨されます。

献血をするとフェリチンはどうなりますか?

全血献血(400mL)では、約200mgの鉄が失われます。これは、フェリチン換算で約100-200 ng/mLの低下に相当します。献血後、フェリチンが回復するには、男性で約1-2ヶ月、女性で約2-4ヶ月かかります。頻繁に献血する人(年3-4回以上)は、鉄欠乏のリスクが高いため、定期的にフェリチンをチェックし、必要に応じて鉄分の多い食事や鉄剤の補給を検討しましょう。

まとめ

体内の鉄は約60-70%がヘモグロビンに、20-30%がフェリチンとして肝臓、脾臓、骨髄に貯蔵され、わずか0.1%がトランスフェリンによって血液中を運搬されています。フェリチンは24個のサブユニットが球状に組み立てられた鉄貯蔵タンパク質で、内部に最大4,500個の鉄原子を安全に保管します。H鎖がFe²⁺をFe³⁺に酸化して毒性を無くし、L鎖が鉄の貯蔵を安定化させます。血清フェリチンは体内の鉄貯蔵量を反映し、15ng/mL以下で鉄欠乏、1,000ng/mL以上で鉄過剰を示しますが、炎症でも上昇するため注意が必要です。

トランスフェリンは肝臓で合成される糖タンパク質で、1分子が2個のFe³⁺を結合して全身に運び、鉄を可溶化し毒性を防ぎます。トランスフェリン飽和度が20-50%で正常、15%以下で鉄欠乏、60%以上で鉄過剰を示します。細胞はトランスフェリン受容体を通じて鉄を取り込み、細胞内の鉄レベルはIRPシステムによって厳密に調節されます。鉄が不足するとIRPが活性化してトランスフェリン受容体の発現を増やし、フェリチンの合成を抑制します。1日に約20-24mgの鉄が血液中を循環しますが、そのうち新たに吸収されるのは1-2mgで、約90%は脾臓のマクロファージが老化赤血球から回収してリサイクルします。この効率的な貯蔵と運搬のシステムにより、体内の鉄の恒常性が維持されています。

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参考文献

  1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2025年版)
  2. Theil EC. Ferritin: structure, gene regulation, and cellular function in animals, plants, and microorganisms. Annu Rev Biochem, 1987
  3. Arosio P, Levi S. Ferritin, iron homeostasis, and oxidative damage. Free Radic Biol Med, 2002
  4. Hentze MW, et al. Two to tango: regulation of Mammalian iron metabolism. Cell, 2010
水流琴音(つることね)

管理栄養士|分子栄養学と料理を理論から実践に落とし込んだおうちごはんが得意。栄養のいろはを詰めこんだ理系のごはん作りが好き。

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