なぜマグネシウムで便通が良くなるの?|腸内の水分を増やすメカニズム

便秘に悩んでいる人の多くは、「便が硬い」「出にくい」という問題を抱えています。この原因の一つは、便の水分不足です。健康な便の水分含有量は約70-80%ですが、便秘の便は60%以下になっていることがあります。では、どうすれば便の水分を増やせるのでしょうか?

その答えの一つが「マグネシウム」です。マグネシウムは、腸の中で「浸透圧」という物理的な力を使って、腸壁から腸管内へ水分を引き込みます。この水分によって便が柔らかくなり、排便がスムーズになるのです。酸化マグネシウムという便秘薬は、この原理を利用しています。

この記事では、マグネシウムがどのようにして腸内の水分を増やすのか、浸透圧とは何か、なぜ水分が腸壁を越えて移動するのか、そして食事からマグネシウムを摂取する方法について、詳しく解説します。

便の水分と便秘の関係

健康な便の水分含有量

健康な便は、約70-80%が水分で、残りの20-30%が固形成分(食物繊維、細菌、細胞の残骸など)です。この水分バランスが、便の硬さと排便のしやすさを決めます。

便の状態 水分含有量 特徴
正常便 70-80% バナナ状、適度な硬さ、排便しやすい
硬い便(便秘) 60%以下 コロコロ、硬い、排便困難
軟便 80-90% やや柔らかい、形が崩れやすい
下痢 90%以上 液状、形がない

便秘で便が硬くなる理由

便秘では、以下の理由で便が硬くなります。

  1. 腸の蠕動運動が遅い:便が大腸に長時間留まる
  2. 水分の再吸収:大腸は、便から水分を再吸収して体に戻す役割を持つ。便が長時間留まると、過剰に水分が吸収され、便が硬くなる
  3. 食物繊維不足:食物繊維は、便の中で水分を保持する。不足すると、便の水分量が減る
  4. 水分摂取不足:体全体の水分が不足すると、大腸での水分再吸収が増える

浸透圧とは

基本的な概念

「浸透圧」とは、濃度の異なる溶液が半透膜(水は通すが、溶質は通さない膜)で隔てられているときに、水が濃度の低い側から高い側へ移動しようとする力です。

身近な例で説明しますね。

例1:野菜の塩漬け
キュウリに塩をまぶすと、キュウリから水が出てきます。これは、塩(溶質)が高濃度の場所(キュウリの表面)へ、キュウリの中の水が移動するためです。

例2:ナメクジに塩
ナメクジに塩をかけると、体から水が出て縮みます。これも、塩の高い浸透圧によって、ナメクジの体内の水が外に引き出されるためです。

浸透圧の原理

浸透圧は、溶液中の「粒子の数」に比例します。溶質の種類(塩、砂糖、マグネシウムなど)は関係なく、溶けている粒子(分子やイオン)の総数が多いほど、浸透圧が高くなります。

ファント・ホッフの式:
π = n × R × T
π:浸透圧
n:溶質の濃度(モル濃度)
R:気体定数
T:温度(ケルビン)

体内の浸透圧調節

私たちの体内では、血液、細胞液、腸管内の液体など、すべてが適切な浸透圧を維持しています。血液の浸透圧は、約280-300 mOsm/L(ミリオスモル/リットル)に保たれています。

もし、ある場所の浸透圧が急に高くなると、水が自然にそこへ移動して、濃度を薄めようとします(浸透圧平衡)。マグネシウムは、この原理を利用して、腸管内の水分を増やすのです。

マグネシウムが腸内の水分を増やす仕組み

マグネシウムイオンの放出

酸化マグネシウム(MgO)を経口摂取すると、胃や小腸で水と反応します。

胃での反応:
MgO + 2HCl → MgCl₂ + H₂O
(塩酸と反応して、塩化マグネシウムと水が生成)

小腸での反応:
MgO + H₂O → Mg(OH)₂
(水と反応して、水酸化マグネシウムが生成)

水酸化マグネシウム(Mg(OH)₂)は、一部がマグネシウムイオン(Mg²⁺)と水酸化物イオン(OH⁻)に分解されます。

Mg(OH)₂ ⇄ Mg²⁺ + 2OH⁻

腸管内の浸透圧上昇

Mg²⁺イオンとOH⁻イオンが腸管内に留まることで、腸管内の溶液の浸透圧が高くなります。

1つのMg(OH)₂から、3つのイオン(1個のMg²⁺と2個のOH⁻)が生成されるため、浸透圧への寄与が大きいのです。

水分の移動

腸壁(腸管の内壁)は、半透膜のような働きをします。水分子は通しますが、マグネシウムイオンのような大きなイオンは通しにくいのです。

浸透圧平衡の原理により、水は「浸透圧の低い場所(血液側)」から「浸透圧の高い場所(腸管内)」へ移動します。

移動の流れ:
血液(浸透圧:280-300 mOsm/L)→ 腸壁 → 腸管内(浸透圧:高い)

便の水分量増加

腸管内に移動した水分は、便と混ざり合い、便の水分含有量を増やします。硬かった便(水分60%以下)が、正常な便(水分70-80%)になり、柔らかくなります。

排便の促進

柔らかくなった便は、腸の蠕動運動(腸が収縮と弛緩を繰り返して、内容物を先へ送る動き)によって、スムーズに直腸へ運ばれ、排出されます。

酸化マグネシウムの特徴

吸収されにくい

マグネシウムは、小腸で能動輸送と受動拡散の両方で吸収されますが、酸化マグネシウムの形では、以下の理由で吸収率が低くなります。

  • 溶解度が低い:Mg(OH)₂は水に溶けにくい(溶解度積:1.8×10⁻¹¹)
  • 高用量:便秘薬として使う量(1日1-2g)は、通常の食事からの摂取量(200-400mg/日)より多く、小腸の吸収能力を超える
  • 滞在時間が短い:食物は、数時間で小腸を通過する

吸収率は、約30-50%です。つまり、酸化マグネシウム1gを摂取すると、300-500mgが吸収され、残りの500-700mgは大腸まで到達します。

大腸での継続的な作用

大腸に到達したマグネシウムイオンは、引き続き浸透圧を高め、水分を保持します。

大腸は通常、便から水分を再吸収して体に戻す役割を持っています。1日に約1.5-2リットルの水分が小腸から大腸に入りますが、そのうち約1.4リットルが再吸収され、最終的に便に残る水分は約100-200mLです。

しかし、マグネシウムの浸透圧作用により、水分が再吸収されにくくなり、便の水分量が維持されます。

効果の発現時間

酸化マグネシウムの効果は、通常、服用後6-12時間で現れます。場合によっては、1-2日かかることもあります。これは、刺激性下剤(2-6時間で効果)と比べて、ゆっくりです。

効果が穏やかな理由は、マグネシウムが腸を直接刺激するのではなく、物理的に便の水分量を増やすためです。

食事からのマグネシウムと便通

マグネシウムが豊富な食品

食品 1食分の量 マグネシウム含有量(mg) 1日の推奨量に対する割合
あおさ(乾燥) 大さじ1(3g) 100 30%
わかめ(乾燥) 10g 110 33%
ひじき(乾燥) 10g 62 19%
アーモンド 20粒(25g) 77 23%
カシューナッツ 15粒(20g) 48 14%
納豆 1パック(50g) 50 15%
豆腐(木綿) 1/2丁(150g) 93 28%
玄米ごはん 1膳(150g) 74 22%
ほうれん草(茹で) 100g 69 21%
バナナ 1本(100g) 32 10%

※推奨量は成人男性340-370mg/日、成人女性270-290mg/日として計算

食事からのマグネシウムの効果

食事から摂取したマグネシウムも、同じように浸透圧作用を持ちますが、通常の食事量では、便秘薬ほどの強い効果はありません。

ただし、マグネシウムが豊富な食事を続けることで、以下の効果が期待できます。

  • 便が適度に柔らかくなる:水分含有量が70-80%に保たれ、排便がスムーズになる
  • 腸の蠕動運動が正常に保たれる:マグネシウムは、筋肉の収縮と弛緩に必要なミネラル。腸の筋肉(平滑筋)も、マグネシウムがないと正常に動けない
  • 腸内環境の改善:マグネシウムは、腸内細菌の一部の菌種のエサにもなる

水分摂取との相乗効果

マグネシウムの浸透圧作用は、「腸壁から腸管内へ水を引き込む」ものですが、そのためには、体内に十分な水分がある必要があります。

水分摂取が不足していると、体全体が脱水気味になり、大腸での水分再吸収が増えるため、マグネシウムの効果が十分に発揮されません。

便秘改善のためには、マグネシウムの摂取と同時に、十分な水分摂取(1日1.5-2リットル)が重要です。

過剰摂取と副作用

浸透圧性下痢

マグネシウムを過剰に摂取すると、腸管内の浸透圧が高くなりすぎて、水分が大量に腸管内に移動し、「浸透圧性下痢」が起こります。

下痢の特徴:

  • 水様便(水分含有量90%以上)
  • 腹痛は軽度(刺激性下剤による下痢ほど強くない)
  • マグネシウムの摂取を止めると、すぐに改善する

腹部膨満感

マグネシウムが腸管内の水分を増やすため、お腹が張ったように感じることがあります。これは、腸管内の内容物の体積が増えるためです。通常、数時間〜1日で改善します。

高マグネシウム血症

腎機能が正常であれば、過剰なマグネシウムは尿から排泄されるため、血液中のマグネシウム濃度(正常値:1.7-2.6 mg/dL)が高くなることは稀です。

しかし、腎機能が低下している人が、酸化マグネシウムを長期間、大量に服用すると、「高マグネシウム血症」になるリスクがあります。

高マグネシウム血症の症状

  • 吐き気、嘔吐
  • 筋力低下
  • 血圧低下
  • 不整脈
  • 呼吸抑制(重度の場合)

よくある質問

水をたくさん飲めば、マグネシウムなしでも便が柔らかくなりますか?

水分摂取は、便秘改善に重要ですが、水を飲むだけでは、腸管内の水分量を直接増やすことは難しいです。なぜなら、水は小腸でほぼ完全に吸収され、血液に入るからです。マグネシウムは、浸透圧作用によって、血液から腸管内へ水を「引き戻す」働きをします。つまり、水分摂取とマグネシウム摂取の両方が、相乗効果を発揮するのです。

食物繊維とマグネシウム、どちらが便秘に効きますか?

食物繊維とマグネシウムは、異なるメカニズムで便秘を改善します。

  • 食物繊維:便の中で水分を保持し、便の体積を増やす。腸の蠕動運動を刺激する
  • マグネシウム:浸透圧作用で、腸管内の水分を増やし、便を柔らかくする

両方を組み合わせることで、最も効果的に便秘を改善できます。

酸化マグネシウムは、即効性がありますか?

酸化マグネシウムの効果は、通常、服用後6-12時間で現れます。刺激性下剤(センナ、ビサコジルなど)は2-6時間で効果が現れますが、酸化マグネシウムはより穏やかです。即効性を求める場合は、刺激性下剤や浣腸が選択されることがありますが、これらは習慣性があるため、長期使用には向きません。

マグネシウムサプリメントでも、便通が良くなりますか?

はい、マグネシウムサプリメント(特に、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、硫酸マグネシウムなど、吸収率が低い形態)を摂取すると、便が柔らかくなることがあります。一部のマグネシウムサプリメントは、「便通改善」を目的として販売されています。ただし、サプリメントの用量を守り、下痢にならないように注意してください。

マグネシウムを摂取すると、必ず便が柔らかくなりますか?

個人差があり、以下のようなからだの状態が影響します。

  • 摂取量(多いほど効果が強い)
  • マグネシウムの形態(酸化マグネシウムは効果が強い、クエン酸マグネシウムは吸収率が高く、便秘改善効果は弱い)
  • 腎機能(正常であれば、過剰分は尿から排泄される)
  • 水分摂取量(水分が不足していると、効果が弱い)
  • 腸の状態(炎症性腸疾患などがあると、反応が異なる)

まとめ

マグネシウムイオンは腸管内の浸透圧を上昇させ、濃度勾配に従って血液側から腸管内へ水分を受動的に移動させます。酸化マグネシウムは胃や小腸で水と反応してMg²⁺イオンと2個のOH⁻イオンを放出し、合計3個のイオンが腸管内浸透圧を高めます。腸壁は半透膜として機能し水分子を通しますがマグネシウムイオンは通しにくいため、浸透圧平衡の原理により水が血液から腸管内へ移動します。この水分により便の水分含有量が60%以下から70-80%に増加し便が柔らかくなり、腸の蠕動運動によってスムーズに排便されます。

酸化マグネシウムの吸収率は約30-50%で、1日1-2g摂取すると500-700mgが大腸まで到達し継続的に水分を保持します。大腸は通常1日1.5-2リットルの水分のうち1.4リットルを再吸収しますが、マグネシウムの浸透圧作用により再吸収が抑制され便の水分量が維持されます。効果発現時間は服用後6-12時間で刺激性下剤より穏やかですが、腸を直接刺激せず物理的に便の水分量を増やすため習慣性が少なく長期使用でも腸機能低下が起こりにくい特徴があります。

食品ではあおさ100mg/大さじ1、わかめ110mg/10g、アーモンド77mg/20粒、納豆50mg/1パック、豆腐93mg/半丁に豊富で、推奨量は成人男性340-370mg/日、成人女性270-290mg/日です。食事からのマグネシウムは便秘薬ほど強い効果はありませんが、継続摂取で便が適度に柔らかくなり腸の蠕動運動が正常に保たれ腸内環境も改善されます。マグネシウムの浸透圧作用には体内の十分な水分が必要で、水分摂取不足では大腸での水分再吸収が増えるため効果が十分発揮されず、1日1.5-2リットルの水分摂取が重要です。過剰摂取は腸管内浸透圧の過度な上昇により浸透圧性下痢を引き起こし、腎機能低下者では高マグネシウム血症のリスクがあります。

次に読むと理解が深まる記事

参考文献

  1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2025年版)
  2. Nelson DL, Cox MM. Lehninger Principles of Biochemistry. 8th ed. W.H. Freeman, 2021
  3. Murray RK, et al. Harper’s Illustrated Biochemistry. 32nd ed. McGraw-Hill Education, 2023
  4. Hans-Konrad Biesalski, et al. カラーアトラス栄養学. 医学書院
  5. Fine KD, et al. Intestinal absorption of magnesium from food and supplements. J Clin Invest, 1991
  6. Schiller LR. Review article: the therapy of constipation. Aliment Pharmacol Ther, 2001
水流琴音(つることね)

管理栄養士|分子栄養学と料理を理論から実践に落とし込んだおうちごはんが得意。栄養のいろはを詰めこんだ理系のごはん作りが好き。

関連記事