酸化マグネシウムが便秘に効く理由|腸で水を引き寄せる浸透圧作用
病院や薬局で処方される便秘薬の中で、最もよく使われているのが「酸化マグネシウム」です。商品名では「マグミット」「マグラックス」「重カマ」などとして知られています。酸化マグネシウムは、古くから使われている便秘薬で、安全性が高く、習慣性が少ないことが特徴です。
では、なぜ酸化マグネシウムが便秘に効くのでしょうか?その答えは、「浸透圧」という物理的な力にあります。酸化マグネシウムは、腸の中で溶けて「マグネシウムイオン」になり、腸管内の浸透圧を高めます。すると、浸透圧のバランスを保つために、腸壁から腸管内へ水分が移動します。この水分によって便が柔らかくなり、排便がスムーズになるのです。
この記事では、酸化マグネシウムがどのようにして便秘に効くのか、浸透圧作用とは何か、刺激性下剤とどう違うのか、安全性と副作用、そして正しい使い方について、詳しく解説します。
酸化マグネシウムとは
化学的な性質
酸化マグネシウム(MgO)は、マグネシウム(Mg)と酸素(O)が結合した無機化合物です。白色の粉末で、水にはほとんど溶けませんが、酸(胃酸など)には溶けます。
化学式:MgO
分子量:40.3
医薬品としての歴史
酸化マグネシウムは、古くから「制酸剤(胃酸を中和する薬)」として使われてきました。胃酸過多や胸やけの治療に用いられます。
その後、便秘への効果も認められ、現在では「浸透圧性下剤」として、便秘治療の第一選択薬の一つになっています。
商品名
日本で販売されている主な酸化マグネシウム製剤:
- マグミット錠(日本新薬)
- マグラックス錠(旭化成ファーマ)
- 重カマ(健栄製薬、粉末タイプ)
- 3Aマグネシア(フジックス、市販薬)
酸化マグネシウムの作用機序
胃での反応
酸化マグネシウムを経口摂取すると、まず胃で胃酸(塩酸、HCl)と反応します。
反応式:
MgO + 2HCl → MgCl₂ + H₂O
この反応で、酸化マグネシウムは「塩化マグネシウム(MgCl₂)」と水に変わります。塩化マグネシウムは水に溶けやすく、マグネシウムイオン(Mg²⁺)と塩化物イオン(Cl⁻)に分かれます。
MgCl₂ → Mg²⁺ + 2Cl⁻
小腸での反応
胃を通過した酸化マグネシウムは、小腸に入ります。小腸の環境はアルカリ性(pH 7-8)なので、酸化マグネシウムは水と反応して、「水酸化マグネシウム(Mg(OH)₂)」になります。
反応式:
MgO + H₂O → Mg(OH)₂
水酸化マグネシウムは、水に溶けにくい(溶解度積:1.8×10⁻¹¹)ため、ほとんどが固体のまま腸管内に留まります。ただし、一部はマグネシウムイオン(Mg²⁺)と水酸化物イオン(OH⁻)に分解されます。
Mg(OH)₂ ⇄ Mg²⁺ + 2OH⁻
腸管内の浸透圧上昇
Mg²⁺イオンとOH⁻イオンが腸管内に留まることで、腸管内の溶液の「浸透圧」が高くなります。
浸透圧とは、溶液中の粒子(分子やイオン)の数に比例する力です。1つのMg(OH)₂から、3つのイオン(1個のMg²⁺と2個のOH⁻)が生成されるため、浸透圧への寄与が大きいのです。
水分の移動
腸壁は、「半透膜」のような働きをします。水分子は通しますが、マグネシウムイオンのような大きなイオンは通しにくいのです。
「浸透圧平衡」の原理により、水は「浸透圧の低い場所(血液側)」から「浸透圧の高い場所(腸管内)」へ自然に移動します。
移動の流れ:
血液(浸透圧:280-300 mOsm/L)→ 腸壁 → 腸管内(浸透圧:高い)
便の水分量増加
腸管内に移動した水分は、便と混ざり合い、便の水分含有量を増やします。硬かった便(水分60%以下)が、正常な便(水分70-80%)になり、柔らかくなります。
排便の促進
柔らかくなった便は、腸の正常な蠕動運動(腸が収縮と弛緩を繰り返して、内容物を先へ送る動き)によって、スムーズに直腸へ運ばれ、排出されます。
吸収されにくい理由
溶解度が低い
水酸化マグネシウム(Mg(OH)₂)の溶解度は非常に低く、ほとんどが固体のまま腸管内に留まります。そのため、小腸での吸収が限られます。
高用量
便秘薬として使用される酸化マグネシウムの量は、1日1-2g(1000-2000mg)です。これは、通常の食事からのマグネシウム摂取量(200-400mg/日)の2.5-10倍です。
小腸のマグネシウム吸収能力には限界があり、高用量を摂取すると、吸収しきれない分が大腸まで到達します。
吸収率
酸化マグネシウムの吸収率は、約30-50%です。つまり、1gを摂取すると、300-500mgが吸収され、残りの500-700mgは腸管内に留まり、浸透圧作用を発揮します。
刺激性下剤との違い
下剤の種類
下剤は、作用機序によって、いくつかの種類に分けられます。
| 種類 | 代表的な薬剤 | 作用機序 | 効果発現時間 | 習慣性 |
|---|---|---|---|---|
| 浸透圧性下剤 | 酸化マグネシウム ラクツロース マクロゴール |
腸管内の浸透圧を高めて水分を引き寄せる | 6-12時間 | 低い |
| 刺激性下剤 | センナ ビサコジル ピコスルファート |
腸の蠕動運動を直接刺激する | 2-6時間 | 高い |
| 膨張性下剤 | プランタゴ・オバタ カルメロース |
便の体積を増やして刺激する | 1-3日 | 低い |
| 潤滑性下剤 | ジオクチルソジウムスルホサクシネート | 便の表面を滑らかにする | 12-72時間 | 低い |
浸透圧性下剤の利点
- 習慣性が少ない:腸を物理的に刺激するわけではないので、長期間使用しても、腸の機能が低下しにくい
- 自然な排便:便が柔らかくなることで、腸の正常な蠕動運動で排便が起こる
- 安全性が高い:腎機能が正常であれば、過剰なマグネシウムは尿から排泄される
- 長期使用可能:慢性便秘の患者に、数ヶ月〜数年間使用されることもある
刺激性下剤の問題点
- 習慣性がある:長期使用すると、腸が刺激に慣れてしまい、薬なしでは排便できなくなることがある
- 腸の機能低下:腸の神経や筋肉が傷つき、「大腸メラノーシス(大腸黒皮症)」という色素沈着が起こることがある
- 腹痛:腸を強く刺激するため、腹痛や腹部けいれんが起こりやすい
- 電解質異常:頻繁に使用すると、カリウムなどの電解質が失われ、不整脈のリスクが高まる
酸化マグネシウムの安全性
長期使用の安全性
酸化マグネシウムは、腎機能が正常であれば、長期間使用しても比較的安全です。日本では、数年間使用している患者も珍しくありません。
ただし、定期的に医師の診察を受け、以下の点をチェックすることが推奨されます。
- 血液中のマグネシウム濃度(正常値:1.7-2.6 mg/dL)
- 腎機能(クレアチニン、eGFR)
- 電解質(ナトリウム、カリウム、カルシウムなど)
妊娠中・授乳中の使用
妊娠中の便秘は非常に一般的で、酸化マグネシウムは妊婦にも安全に使える便秘薬の一つとされています。胎児への影響は報告されていません。
授乳中も、母乳へのマグネシウムの移行は少量であり、通常の用量であれば問題ないとされています。
ただし、必ず医師に相談してから使用してください。
高齢者での使用
高齢者は、腎機能が低下していることが多いため、酸化マグネシウムの使用には注意が必要です。用量を減らすか、より慎重にモニタリングする必要があります。
副作用とリスク
下痢
最も多い副作用は、「下痢」です。酸化マグネシウムの量が多すぎると、腸管内の浸透圧が高くなりすぎて、水分が過剰に移動し、水様便になります。
対策:用量を減らす、または数日間休薬する。
腹部膨満感
腸管内の水分が増えるため、お腹が張ったように感じることがあります。通常、数時間〜1日で改善します。
高マグネシウム血症
腎機能が低下している人が、酸化マグネシウムを長期間、大量に服用すると、「高マグネシウム血症」になるリスクがあります。
高マグネシウム血症の症状:
- 吐き気、嘔吐
- 筋力低下
- 血圧低下
- 徐脈(脈が遅くなる)
- 不整脈
- 呼吸抑制(重度の場合)
- 意識障害(重度の場合)
血液中のマグネシウム濃度が4 mg/dL以上になると、症状が現れ始めます。6 mg/dL以上では、重篤な症状が起こる可能性があります。
腎機能低下者への注意
以下のような人は、酸化マグネシウムの使用を避けるか、医師の厳重な管理下で使用する必要があります。
- 慢性腎臓病(CKD)のステージ3以上(eGFR
- 透析を受けている人
- 高齢者(腎機能が低下していることが多い)
正しい使い方
用量
酸化マグネシウムの通常の用量:
- 成人:1日1-2g(1000-2000mg)を、2-3回に分けて服用
- 高齢者:1日0.5-1g(500-1000mg)から開始し、様子を見ながら調整
- 小児:体重1kgあたり20-30mg/日が目安(医師の指示に従う)
服用のタイミング
酸化マグネシウムは、食後に服用するのが一般的です。空腹時に服用すると、胃への刺激が強くなることがあります。
また、就寝前に服用すると、翌朝の排便がスムーズになることが多いです。
水分摂取
酸化マグネシウムの効果を最大限に発揮するには、十分な水分摂取(1日1.5-2リットル)が重要です。水分が不足していると、浸透圧作用が十分に働きません。
効果が出るまでの時間
酸化マグネシウムの効果は、通常、服用後6-12時間で現れます。場合によっては、1-2日かかることもあります。
すぐに効果が現れなくても、焦らずに待つことが大切です。
他の薬との相互作用
酸化マグネシウムは、以下の薬剤の吸収を妨げることがあります。服用時間をずらす(2-3時間空ける)必要があります。
- テトラサイクリン系抗生物質
- ニューキノロン系抗生物質
- ビスホスホネート製剤(骨粗鬆症の薬)
- 甲状腺ホルモン製剤
よくある質問
酸化マグネシウムは、毎日飲まないといけませんか?
便秘の程度によります。慢性便秘の場合は、毎日服用することが推奨されます。一方、たまに便秘になる程度であれば、必要なときだけ服用しても構いません。医師の指示に従ってください。
酸化マグネシウムを飲んでも効果がない場合は?
以下の点を確認してください。
- 用量は適切か(不足していないか)
- 水分摂取は十分か(1日1.5-2リットル)
- 食物繊維の摂取は十分か
- 適度な運動をしているか
これらを改善しても効果がない場合は、他の便秘薬(ラクツロース、マクロゴールなど)や、原因疾患の検査が必要かもしれません。医師に相談してください。
酸化マグネシウムと食物繊維を一緒に摂っても良いですか?
はい、むしろ推奨されます。酸化マグネシウムと食物繊維は、異なるメカニズムで便秘を改善します。両方を組み合わせることで、最も効果的に便秘を改善できます。
市販の酸化マグネシウムと処方薬の違いは?
主成分は同じです。ただし、以下の違いがあります。
- 用量:市販薬は、1日の最大用量が限られている(例:3Aマグネシアは、1日2g)
- 価格:処方薬は、健康保険が適用されるため、自己負担額が少ない
- 医師の管理:処方薬は、医師が定期的にチェックするため、安全性が高い
まとめ
酸化マグネシウムは腸管で吸収されずマグネシウムイオンとして腸内に留まり、腸管内の浸透圧を高めて浸透圧平衡を保つため腸壁から水分が腸管内に移動し便が柔らかくなります。胃で酸化マグネシウムが胃酸と反応して塩化マグネシウムになり、小腸で水と反応して水酸化マグネシウムになり、一部がMg²⁺イオンと2個のOH⁻イオンに分解されて合計3個のイオンが腸管内浸透圧を上昇させます。腸壁は半透膜として水分子を通しマグネシウムイオンを通しにくいため、血液から腸管内へ水が受動的に移動します。
酸化マグネシウムの吸収率は約30-50%で、1日1-2g摂取すると500-700mgが大腸まで到達し継続的に水分を保持します。刺激性下剤と異なり腸の蠕動運動を直接刺激せず物理的に便の水分量を増やすため習慣性が少なく、長期使用でも腸の機能低下や大腸メラノーシスが起こりにくい安全な便秘薬です。効果発現時間は服用後6-12時間で刺激性下剤(2-6時間)より穏やかですが、腹痛が少なく自然な排便が得られます。妊娠中・授乳中も医師の指導下で安全に使用でき、胎児への影響は報告されていません。
副作用として下痢が最も多く用量過多で起こりますが、用量調整で改善します。腎機能低下者では高マグネシウム血症(吐き気、筋力低下、血圧低下、不整脈、呼吸抑制)のリスクがあり、eGFR
次に読むと理解が深まる記事
- 消化と吸収の仕組み – 腸管での栄養素吸収の基本メカニズム
参考文献
- 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2025年版)
- Nelson DL, Cox MM. Lehninger Principles of Biochemistry. 8th ed. W.H. Freeman, 2021
- Murray RK, et al. Harper’s Illustrated Biochemistry. 32nd ed. McGraw-Hill Education, 2023
- Hans-Konrad Biesalski, et al. カラーアトラス栄養学. 医学書院
- Schiller LR. Review article: the therapy of constipation. Aliment Pharmacol Ther, 2001
- 日本消化器病学会. 慢性便秘症診療ガイドライン2017
