亜鉛が300種類の酵素を動かす?!|タンパク質合成に不可欠な働き

私たちの体では、毎秒、数え切れないほどの化学反応が起こっています。食べ物を消化する反応、エネルギーを作る反応、新しい細胞を作る反応など、これらすべてを「速く、正確に」進めるために、「酵素」という特別なタンパク質が働いています。酵素は、化学反応の「触媒」として、反応を数百万倍も速くします。

そして、多くの酵素は、単独では働けません。「補因子」という助っ人が必要なのです。亜鉛は、体内で最も重要な補因子の一つで、なんと300種類以上の酵素を助けています。タンパク質を作る、DNAをコピーする、細胞が分裂する、食べ物を消化する、活性酸素を消す—これらすべての反応に、亜鉛が必要です。

この記事では、亜鉛がどのようにして酵素を助けるのか、タンパク質合成やDNA複製でどんな役割を果たすのか、欠乏するとどうなるのか、どんな食品に含まれているのかを、わかりやすく解説します。

亜鉛とは

体内での分布

亜鉛(Zn)は、体内に約2-3g存在するミネラルです。これは、鉄(3-5g)に次いで2番目に多い「微量ミネラル」です。

亜鉛の分布:

  • 筋肉:約60%
  • :約30%
  • 肝臓:約5%
  • その他(皮膚、脳、前立腺など):約5%

亜鉛の特徴

亜鉛は、以下のような特徴を持っています。

  • 酸化還元反応に関与しない:鉄や銅とは異なり、亜鉛は酸化されたり還元されたりしない。常にZn²⁺(2価の陽イオン)の形で存在する
  • 構造的な役割:タンパク質の立体構造を安定化させる
  • 触媒的な役割:酵素の活性中心で、化学反応を促進する
  • 調節的な役割:遺伝子の発現を調節する

酵素の補因子としての亜鉛

補因子とは

酵素は、タンパク質でできています。しかし、タンパク質だけでは、十分に働けない酵素がたくさんあります。そこで、「補因子」という助っ人が必要になります。

補因子には、以下の種類があります。

  • 金属イオン:亜鉛(Zn²⁺)、鉄(Fe²⁺、Fe³⁺)、銅(Cu⁺、Cu²⁺)、マグネシウム(Mg²⁺)など
  • 補酵素:ビタミンB群から作られる有機化合物(NAD⁺、FAD、コエンザイムAなど)

亜鉛は、金属イオン型の補因子で、酵素の特定の部分(活性中心)に結合して、酵素の働きを助けます。

亜鉛を必要とする酵素の数

現在、300種類以上の酵素が、亜鉛を補因子として必要とすることがわかっています。これは、すべての酵素の約10%に相当します。

亜鉛酵素の主なカテゴリー:

カテゴリー 代表的な酵素 主な働き
加水分解酵素 カルボキシペプチダーゼ
アルカリホスファターゼ
タンパク質や核酸を分解する
転写因子 亜鉛フィンガータンパク質 DNAに結合して、遺伝子の発現を調節する
酸化還元酵素 スーパーオキシドジスムターゼ(SOD) 活性酸素を消去する
炭酸脱水酵素 カルボニックアンヒドラーゼ CO₂を水に溶かす反応を触媒
DNA合成酵素 DNAポリメラーゼ
RNAポリメラーゼ
DNAやRNAを合成する

タンパク質合成における亜鉛の役割

タンパク質合成の流れ

タンパク質は、「アミノ酸」という小さな部品が、数百〜数千個つながってできています。タンパク質を作る過程は、大きく2つの段階に分かれます。

  1. 転写(Transcription):DNAの遺伝情報が、mRNA(メッセンジャーRNA)にコピーされる
  2. 翻訳(Translation):mRNAの情報をもとに、リボソームでアミノ酸がつながれて、タンパク質ができる

亜鉛は、この両方の段階で重要な役割を果たします。

転写:DNAからmRNAへ

DNAには、タンパク質の設計図が書かれています。この情報を読み取って、mRNAにコピーする酵素が「RNAポリメラーゼ」です。

RNAポリメラーゼには、亜鉛が含まれています。亜鉛は、DNAの二重らせんをほどいて、片方の鎖を「鋳型」として、相補的なmRNAを合成する反応を助けます。

亜鉛フィンガー:DNAに結合する構造

多くの転写因子(遺伝子のスイッチをオン・オフするタンパク質)は、「亜鉛フィンガー(Zinc finger)」という特殊な構造を持っています。

亜鉛フィンガーは、以下のような構造です。

  • 亜鉛イオン(Zn²⁺)が、4つのアミノ酸(通常は、システインとヒスチジン)に結合している
  • この結合により、タンパク質が「指(フィンガー)」のような形になる
  • この「指」が、DNAの特定の配列に結合する

亜鉛フィンガーの役割:

  1. DNAの認識:特定の遺伝子の「プロモーター(スイッチ)」に結合する
  2. 遺伝子の活性化:RNAポリメラーゼを呼び寄せて、転写を開始させる
  3. 遺伝子の抑制:逆に、転写を止める

亜鉛フィンガーを持つタンパク質の例:

  • p53(がん抑制遺伝子)
  • ステロイドホルモン受容体
  • 転写因子Sp1

もし亜鉛が不足すると、亜鉛フィンガーの構造が崩れて、これらのタンパク質がDNAに結合できなくなり、遺伝子の発現がうまく調節できなくなります。

翻訳:リボソームでのタンパク質合成

mRNAの情報をもとに、アミノ酸をつなげてタンパク質を作る「工場」が、リボソームです。リボソームは、タンパク質とRNA(リボソームRNA、rRNA)でできています。

リボソームには、亜鉛が含まれています。亜鉛は、以下の役割を果たします。

  • リボソームの構造維持:亜鉛が、リボソームのタンパク質部分を安定化させる
  • ペプチド結合の形成:アミノ酸同士をつなげる「ペプチド結合」を作る反応を触媒する

亜鉛が不足すると、リボソームの機能が低下し、タンパク質合成の速度が遅くなります。その結果、細胞の成長や修復がうまくいかなくなります。

DNA複製における亜鉛の役割

DNA複製とは

細胞が分裂するとき、DNAを2倍にコピーする必要があります。これが「DNA複製」です。DNA複製を行う酵素が「DNAポリメラーゼ」です。

DNAポリメラーゼと亜鉛

DNAポリメラーゼには、亜鉛が含まれています。亜鉛は、以下の役割を果たします。

  • DNAの鋳型鎖の認識:元のDNA(鋳型)を正確に読み取る
  • 新しいDNA鎖の合成:ヌクレオチド(DNAの部品)を次々につなげていく
  • 校正機能:間違ったヌクレオチドが入ったら、それを取り除く

亜鉛が不足すると、DNAポリメラーゼの機能が低下し、DNA複製のエラー(突然変異)が増える可能性があります。

細胞分裂と亜鉛の需要

細胞分裂が活発な組織(骨髄、小腸粘膜、皮膚、毛髪など)では、大量のDNA複製が起こるため、亜鉛の需要が特に高くなります。

亜鉛欠乏の影響が最初に現れるのは、これらの「細胞分裂が速い組織」です。

組織 細胞の寿命 亜鉛欠乏の影響
小腸粘膜 約3-5日 下痢、吸収不良
皮膚 約28日 皮膚炎、創傷治癒遅延
毛髪 約2-6年 脱毛
骨髄(赤血球) 約120日 貧血
免疫細胞 数日〜数ヶ月 免疫機能低下

消化酵素と亜鉛

カルボキシペプチダーゼ

「カルボキシペプチダーゼ(Carboxypeptidase)」は、膵臓から分泌される消化酵素で、タンパク質を分解します。

働き:タンパク質のC末端(カルボキシル基側の端)から、アミノ酸を1つずつ切り離す

カルボキシペプチダーゼの活性中心には、亜鉛イオンが1個含まれています。この亜鉛が、ペプチド結合(アミノ酸同士をつなぐ結合)を切断する反応を触媒します。

反応の仕組み:

  1. 亜鉛イオンが、ペプチド結合のカルボニル基(C=O)に結合する
  2. この結合により、カルボニル炭素が「電子不足」になる
  3. 水分子(H₂O)が攻撃しやすくなり、ペプチド結合が切れる
  4. アミノ酸が1つ遊離する

アルカリホスファターゼ

「アルカリホスファターゼ(Alkaline phosphatase)」は、リン酸基を切り離す酵素で、骨の形成や、栄養素の吸収に関わります。

アルカリホスファターゼにも、亜鉛が含まれています(活性中心に2個のZn²⁺)。

働き:

  • 骨の石灰化(カルシウムとリン酸の沈着)を促進する
  • 小腸でのビタミンB6の吸収を助ける

抗酸化酵素と亜鉛

活性酸素とは

私たちの体では、エネルギーを作るときに、「活性酸素(Reactive oxygen species, ROS)」という有害な物質ができます。活性酸素は、細胞を傷つけ、老化や病気の原因になります。

代表的な活性酸素:

  • スーパーオキシドアニオン(O₂⁻)
  • 過酸化水素(H₂O₂)
  • ヒドロキシルラジカル(・OH)

スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)

「スーパーオキシドジスムターゼ(Superoxide dismutase, SOD)」は、活性酸素を消去する酵素です。

反応:
2 O₂⁻(スーパーオキシド)+ 2 H⁺ → H₂O₂(過酸化水素)+ O₂(酸素)

SODには、3つのタイプがあります。

タイプ 金属補因子 存在場所
SOD1 銅(Cu)と亜鉛(Zn) 細胞質
SOD2 マンガン(Mn) ミトコンドリア
SOD3 銅(Cu)と亜鉛(Zn) 細胞外(血液など)

SOD1とSOD3には、亜鉛が含まれています。亜鉛は、酵素の構造を安定化させる役割を果たします(触媒反応には、銅が使われます)。

亜鉛が不足すると、SODの活性が低下し、活性酸素が蓄積して、細胞が傷つきやすくなります。

亜鉛の推奨摂取量

日本人の食事摂取基準(2025年版)

年齢・性別 推奨量(mg/日)
成人男性(18-64歳) 11
成人男性(65歳以上) 10
成人女性(18-64歳) 8
成人女性(65歳以上) 8
妊婦(付加量) +2
(合計10mg/日)
授乳婦(付加量) +4
(合計12mg/日)

耐容上限量

亜鉛の耐容上限量は、成人で40-45mg/日です。これを超えて長期間摂取すると、以下のリスクがあります。

  • 銅の吸収阻害(貧血、好中球減少)
  • 鉄の吸収阻害
  • 免疫機能の低下(逆説的ですが、過剰摂取でも低下します)
  • HDLコレステロール(善玉)の低下

亜鉛が豊富な食品

食品中の亜鉛含有量

食品 1食分の量 亜鉛含有量(mg) 1日の推奨量に対する割合(男性)
牡蠣(生) 5個(75g) 10.5 95%
牛肉(赤身) 100g 4.5 41%
豚レバー 50g 3.4 31%
鶏レバー 50g 1.5 14%
カシューナッツ 20粒(30g) 1.7 15%
アーモンド 20粒(25g) 1.0 9%
納豆 1パック(50g) 1.0 9%
チーズ(プロセス) 2枚(40g) 1.3 12%
1個(50g) 0.6 5%

※推奨量は成人男性11mg/日として計算

動物性食品 vs 植物性食品

亜鉛は、動物性食品の方が、吸収率が高いです。理由は、後述する「フィチン酸」の影響が少ないためです。

亜鉛欠乏症

主な症状

  • 成長遅延:小児の身長・体重増加の遅れ
  • 免疫機能低下:感染症にかかりやすくなる
  • 皮膚炎:口の周りや四肢末端に湿疹
  • 味覚障害:味を感じにくくなる
  • 脱毛:毛髪が抜ける
  • 創傷治癒遅延:傷が治りにくい
  • 食欲不振
  • 下痢

欠乏しやすい人

  • 菜食主義者(ビーガン)
  • 高齢者(吸収能力の低下、食事量の減少)
  • 妊婦・授乳婦(需要の増加)
  • 慢性疾患の患者(炎症性腸疾患、肝硬変、腎不全など)
  • アルコール多飲者(吸収低下、尿中排泄増加)

よくある質問

亜鉛サプリメントは、どんな人に推奨されますか?

以下のような人には、亜鉛サプリメントが推奨されることがあります。

  • 完全菜食主義者(動物性食品を一切食べない人)
  • 妊婦・授乳婦(需要が増える)
  • 高齢者(吸収能力が低下している)
  • 慢性的な下痢がある人
  • 激しい運動をするアスリート(汗からの損失が多い)

ただし、サプリメントは、医師や薬剤師と相談してから使用してください。

亜鉛を摂りすぎると危険ですか?

はい。耐容上限量(40-45mg/日)を超えて長期間摂取すると、銅の吸収が阻害され、貧血や免疫機能低下が起こる可能性があります。サプリメントの用法・用量を守ってください。

亜鉛は、風邪に効きますか?

はい。複数の研究で、風邪の初期症状が出た時に亜鉛のトローチやサプリメントを摂取すると、症状の期間が短くなることが示されています。ただし、予防効果については、まだ明確な証拠はありません。

亜鉛と銅のバランスは重要ですか?

はい、非常に重要です。亜鉛と銅は、小腸で同じ輸送体を使って吸収されるため、一方を過剰に摂取すると、もう一方の吸収が阻害されます。理想的な比率は、亜鉛:銅 = 10:1程度とされています。

妊娠中の亜鉛不足は、赤ちゃんに影響しますか?

はい。亜鉛は、胎児の細胞分裂とDNA合成に必須です。妊娠中の亜鉛不足は、低出生体重児、早産、先天異常のリスクを高める可能性があります。妊婦は、通常より2mg/日多く(合計10mg/日)摂取することが推奨されています。

まとめ

亜鉛は体内の300種類以上の酵素を助ける補助役として働きタンパク質を作る反応やDNAをコピーする反応に欠かせません。亜鉛フィンガーという特殊な構造でDNAにくっつき遺伝子のスイッチをオン・オフし、転写因子p53やステロイドホルモン受容体として機能します。リボソームでアミノ酸をつなげてタンパク質を組み立てる工場でも亜鉛が必要で、ペプチド結合の形成を触媒します。細胞分裂のときDNAポリメラーゼが亜鉛を使ってDNAを正確に複製し、校正機能でエラーを修正します。細胞分裂が活発な小腸粘膜、皮膚、毛髪、骨髄では特に亜鉛需要が高く、欠乏すると下痢、皮膚炎、脱毛、貧血が起こります。

消化酵素カルボキシペプチダーゼは活性中心に亜鉛を持ちタンパク質のC末端からアミノ酸を1つずつ切り離し、アルカリホスファターゼは2個の亜鉛で骨の石灰化とビタミンB6吸収を促進します。スーパーオキシドジスムターゼSOD1とSOD3は銅と亜鉛を含み活性酸素を消去して細胞を酸化ストレスから守ります。推奨量は成人男性11mg/日、女性8mg/日で、妊婦は+2mg(10mg/日)、授乳婦は+4mg(12mg/日)です。耐容上限量は40-45mg/日で過剰摂取は銅の吸収阻害による貧血や免疫機能低下のリスクがあります。

食品では牡蠣10.5mg/5個、牛肉4.5mg/100g、豚レバー3.4mg/50g、カシューナッツ1.7mg/30gに豊富で、動物性食品の方が植物性食品より吸収率が高いです。亜鉛欠乏症は成長遅延、免疫機能低下、皮膚炎、味覚障害、脱毛、創傷治癒遅延を引き起こし、菜食主義者、高齢者、妊婦、慢性疾患患者、アルコール多飲者は欠乏リスクが高くなります。風邪の初期症状時の亜鉛摂取は症状期間を短縮する効果が示されており、亜鉛と銅のバランスは10対1が理想的で一方の過剰摂取はもう一方の吸収を阻害します。

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参考文献

  1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2025年版)
  2. Nelson DL, Cox MM. Lehninger Principles of Biochemistry. 8th ed. W.H. Freeman, 2021
  3. Murray RK, et al. Harper’s Illustrated Biochemistry. 32nd ed. McGraw-Hill Education, 2023
  4. Hans-Konrad Biesalski, et al. カラーアトラス栄養学. 医学書院
  5. Prasad AS. Zinc in human health: effect of zinc on immune cells. Mol Med, 2008
  6. Andreini C, et al. Zinc through the three domains of life. J Proteome Res, 2006
水流琴音(つることね)

管理栄養士|分子栄養学と料理を理論から実践に落とし込んだおうちごはんが得意。栄養のいろはを詰めこんだ理系のごはん作りが好き。

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