体のエネルギーはどこで作られる?|TCAサイクルの働き

私たちが毎日食べるご飯、肉、魚、野菜。これらの栄養素は、体の中でどのようにエネルギーに変わるのでしょうか。その答えが「TCAサイクル」です。TCAサイクルは、細胞の中にあるミトコンドリアという小さな器官で、1日24時間休まず回り続けている「エネルギー工場」です。

TCAサイクルは、別名「クエン酸回路」や「クレブス回路」とも呼ばれます。このサイクルは、糖質、脂質、タンパク質のすべてを最終的にエネルギー(ATP)に変換する、体の中で最も重要な代謝経路です。驚くべきことに、私たちが1日に消費するエネルギーの約90%は、このTCAサイクルから生み出されています。つまり、TCAサイクルが止まれば、私たちは生きていけないのです。

この記事では、TCAサイクルがどこで働いているのか、8段階の反応がどのように進むのか、どんな栄養素が必要なのか、そしてTCAサイクルを活性化して疲れにくい体を作る食事法について、分子レベルから詳しく解説します。

目次
  1. TCAサイクルとは何か
  2. TCAサイクルに入る前の準備
  3. TCAサイクルの8段階
  4. TCAサイクルから生まれるエネルギー
  5. TCAサイクルに必要な栄養素
  6. TCAサイクルの調節メカニズム
  7. TCAサイクルを活性化する食事法
  8. よくある質問
  9. まとめ
  10. 次に読むと理解が深まる記事
  11. 参考文献

TCAサイクルとは何か

エネルギー代謝の中心的存在

TCAサイクルは、Tricarboxylic Acid Cycle(トリカルボン酸回路)の略で、3つのカルボキシ基(-COOH)を持つ酸が関与する代謝経路という意味です。最初に生成される物質が「クエン酸(citric acid)」であることから、「クエン酸回路(Citric Acid Cycle)」とも呼ばれます。また、1937年にこのサイクルを発見したハンス・クレブス博士の名前にちなんで「クレブス回路(Krebs Cycle)」とも呼ばれます。

このサイクルは、食べ物から取り出したエネルギーの「最終加工場」のような役割を果たしています。糖質(ご飯、パン)、脂質(油、肉の脂)、タンパク質(肉、魚、豆)は、それぞれ異なる経路で分解されますが、最終的にはすべて「アセチルCoA」という共通の物質に変換されます。そして、このアセチルCoAがTCAサイクルに入ることで、大量のエネルギーが取り出されるのです。

つまり、TCAサイクルは「すべての栄養素が最終的に集まる場所」であり、「エネルギー産生の中心地」なのです。

TCAサイクルが働く場所

TCAサイクルは、ミトコンドリアの「マトリックス」という部分で働きます。ミトコンドリアは、細胞の中にある小さな器官で、「細胞の発電所」と呼ばれています。

ミトコンドリアは二重膜構造をしており、以下の3つの部分に分かれています。

  • 外膜:平滑で透過性が高く、小さな分子を通す
  • 内膜:複雑に折りたたまれた構造(クリステ)で、電子伝達系の酵素が埋め込まれている
  • マトリックス:内膜の内側の空間で、TCAサイクルの酵素が存在する

マトリックスは、まるで「工場の作業場」のようなもので、ここにTCAサイクルに必要な8つの酵素がすべて揃っています。これらの酵素が協調して働くことで、アセチルCoAが次々と変換され、エネルギーが取り出されます。

1日に何回サイクルが回るのか

健康な成人の場合、TCAサイクルは1日に数十兆回も回っています。私たちの体には約37兆個の細胞があり、そのほとんどにミトコンドリアが存在します。1つのミトコンドリアでTCAサイクルが1秒間に数百回回ると考えると、全身では想像を絶する回数のサイクルが同時進行しているのです。

例えば、安静時には1分間に約200mlの酸素を消費しますが、そのほとんどがTCAサイクルと電子伝達系で使われています。運動時にはさらに酸素消費量が増え、TCAサイクルの回転速度も上がります。つまり、TCAサイクルは「需要に応じて稼働率を調整できる柔軟な発電システム」なのです。

TCAサイクルに入る前の準備

アセチルCoAとは何か

TCAサイクルに入るためには、すべての栄養素が「アセチルCoA(アセチル補酵素A)」という物質に変換される必要があります。アセチルCoAは、2つの炭素原子を持つ「アセチル基(CH₃CO-)」と、「補酵素A(CoA)」が結合したものです。

補酵素Aは、ビタミンB5(パントテン酸)から作られる補酵素で、アセチル基を運ぶ「運搬車」のような役割を果たします。アセチル基だけでは不安定で反応しにくいのですが、CoAと結合することで安定化し、TCAサイクルの酵素に受け渡しやすくなります。

糖質からアセチルCoAへ

糖質(グルコース)は、以下の経路でアセチルCoAに変換されます。

  1. 解糖系(細胞質):グルコース(6炭素)→ 2分子のピルビン酸(3炭素)
  2. ピルビン酸の酸化的脱炭酸(ミトコンドリアマトリックス):ピルビン酸(3炭素)→ アセチルCoA(2炭素)+ CO₂

この変換は「ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体」という大きな酵素複合体によって行われます。この酵素複合体は、ビタミンB1(チアミン)から作られるTPP(チアミンピロリン酸)を補酵素として使います。つまり、ビタミンB1が不足すると、ピルビン酸がアセチルCoAに変換できず、エネルギー産生が大きく低下します。これが、ビタミンB1不足で疲労感が強くなる理由です。

脂質からアセチルCoAへ

脂質(脂肪酸)は、「β酸化」という経路でアセチルCoAに変換されます。脂肪酸は炭素数が多い(通常16-18個)ため、2炭素ずつ切り離され、複数のアセチルCoAが生成されます。

例えば、パルミチン酸(炭素数16)からは、8分子のアセチルCoAが生成されます。つまり、脂質は糖質よりも多くのアセチルCoAを供給でき、エネルギー効率が高いのです。これが、脂質が「高エネルギー栄養素」と呼ばれる理由です。

タンパク質からアセチルCoAへ

タンパク質(アミノ酸)も、最終的にはアセチルCoAに変換できます。アミノ酸は20種類あり、それぞれ異なる経路で代謝されますが、多くのアミノ酸は最終的にTCAサイクルの中間産物やアセチルCoAになります。

例えば、アラニンはピルビン酸に変換されてからアセチルCoAになり、ロイシンやイソロイシンは直接アセチルCoAに変換されます。つまり、タンパク質もエネルギー源として使えますが、主な役割は体を作ることなので、エネルギー源としては糖質と脂質が優先的に使われます。

こうして、すべての栄養素は最終的にアセチルCoAという「共通の燃料」に変換され、TCAサイクルに供給されるのです。

TCAサイクルの8段階

TCAサイクルは、8つの酵素反応が連続的に起こる「回転する代謝経路」です。1回のサイクルで、アセチルCoA(2炭素)が完全に酸化され、2分子のCO₂が放出され、エネルギーを持つ分子(NADH、FADH₂、ATP)が生成されます。

ここでは、各段階を1つずつ詳しく見ていきましょう。

第1段階:クエン酸の生成

反応:アセチルCoA(2炭素)+ オキサロ酢酸(4炭素)→ クエン酸(6炭素)+ CoA

酵素:クエン酸合成酵素(Citrate synthase)

ポイント:TCAサイクルの出発点です。アセチルCoA(2炭素)がオキサロ酢酸(4炭素)と結合して、クエン酸(6炭素)が生成されます。この反応は不可逆的(一方通行)で、エネルギーを放出します。つまり、この反応が進むと、サイクル全体が前に進みます。

クエン酸合成酵素は、TCAサイクルの「門番」のような役割を果たします。ATP濃度が高いとき(エネルギーが十分なとき)、この酵素は阻害され、サイクルが遅くなります。逆に、ADP濃度が高いとき(エネルギーが不足しているとき)、酵素が活性化され、サイクルが加速します。

第2段階:イソクエン酸の生成

反応:クエン酸(6炭素)→ イソクエン酸(6炭素)

酵素:アコニターゼ(Aconitase)

ポイント:クエン酸がイソクエン酸に異性化(構造を変える)されます。この反応は、実際には2段階で進みます。まず、クエン酸から水(H₂O)が取り除かれてシスアコニット酸という中間体ができ、次に水が再び付加されてイソクエン酸になります。

この反応によって、クエン酸の水酸基(-OH)の位置が変わり、次の段階で酸化されやすい構造になります。まるで「加工しやすいように材料を並べ替える」作業のようなものです。

第3段階:α-ケトグルタル酸の生成(最初のCO₂放出)

反応:イソクエン酸(6炭素)+ NAD⁺ → α-ケトグルタル酸(5炭素)+ NADH + CO₂

酵素:イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(Isocitrate dehydrogenase)

ポイント:TCAサイクルで最初のCO₂が放出される段階です。イソクエン酸が酸化され、1つの炭素がCO₂として取り除かれ、α-ケトグルタル酸(5炭素)になります。同時に、NAD⁺がNADHに還元されます。

NADHは、電子伝達系でATPを大量に生成するための「エネルギーの小切手」のようなものです。1分子のNADHから、約2.5分子のATPが生成されます。つまり、この段階でエネルギーが実質的に取り出され始めるのです。

この酵素も、ATP濃度やNADH濃度によって調節されます。エネルギーが十分なときはサイクルが遅くなり、不足しているときは加速します。

第4段階:スクシニルCoAの生成(2回目のCO₂放出)

反応:α-ケトグルタル酸(5炭素)+ NAD⁺ + CoA → スクシニルCoA(4炭素)+ NADH + CO₂

酵素:α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体(α-Ketoglutarate dehydrogenase complex)

ポイント:2回目のCO₂が放出される段階です。α-ケトグルタル酸が酸化され、1つの炭素がCO₂として取り除かれ、スクシニルCoA(4炭素)になります。同時に、2分子目のNADHが生成されます。

この酵素複合体は、第1段階のピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体と非常に似た構造をしており、同じくビタミンB1(TPP)、ビタミンB2(FAD)、ビタミンB3(NAD⁺)、ビタミンB5(CoA)を補酵素として使います。つまり、ビタミンB群が不足すると、この段階も停滞します。

ここまでで、アセチルCoAの2つの炭素が両方ともCO₂として放出され、呼吸で体外に排出されます。私たちが吐く息に含まれるCO₂は、主にこのTCAサイクルから生まれたものなのです。

第5段階:コハク酸の生成(ATP生成)

反応:スクシニルCoA(4炭素)+ GDP + Pi → コハク酸(4炭素)+ GTP + CoA

酵素:スクシニルCoA合成酵素(Succinyl-CoA synthetase)

ポイント:TCAサイクルで唯一、直接ATPに相当するエネルギー(GTP)が生成される段階です。スクシニルCoAからCoAが外れる際に、エネルギーが放出され、GDPとPi(無機リン酸)からGTP(グアノシン三リン酸)が合成されます。GTPはATPとほぼ同じエネルギーを持ち、簡単にATPに変換できます。

この反応は「基質レベルのリン酸化」と呼ばれ、電子伝達系を経由せずに直接エネルギーを取り出す方法です。TCAサイクル1回転で1分子のGTP(またはATP)が生成されます。

第6段階:フマル酸の生成(FADの還元)

反応:コハク酸(4炭素)+ FAD → フマル酸(4炭素)+ FADH₂

酵素:コハク酸デヒドロゲナーゼ(Succinate dehydrogenase)

ポイント:コハク酸が酸化され、フマル酸になります。この過程で、FAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)がFADH₂に還元されます。FADは、ビタミンB2(リボフラビン)から作られる補酵素です。

FADH₂も、NADHと同様に電子伝達系でATPを生成しますが、1分子のFADH₂から約1.5分子のATPが生成されます(NADHより少し少ない)。

興味深いことに、コハク酸デヒドロゲナーゼは、TCAサイクルの酵素の中で唯一、ミトコンドリアの内膜に埋め込まれています。つまり、この酵素はTCAサイクルと電子伝達系の両方に関わる「橋渡し役」なのです。

第7段階:L-リンゴ酸の生成

反応:フマル酸(4炭素)+ H₂O → L-リンゴ酸(4炭素)

酵素:フマラーゼ(Fumarase)

ポイント:フマル酸に水(H₂O)が付加され、L-リンゴ酸が生成されます。この反応は可逆的(どちらの方向にも進める)ですが、通常はTCAサイクルの流れに沿ってリンゴ酸が生成される方向に進みます。

この段階では、エネルギーは生成されませんが、次の段階で酸化されやすい構造(水酸基を持つ)に変換されます。まるで「最終加工のための準備」のようなものです。

第8段階:オキサロ酢酸の再生(サイクルの完結)

反応:L-リンゴ酸(4炭素)+ NAD⁺ → オキサロ酢酸(4炭素)+ NADH

酵素:リンゴ酸デヒドロゲナーゼ(Malate dehydrogenase)

ポイント:L-リンゴ酸が酸化され、オキサロ酢酸に戻ります。同時に、3分子目のNADHが生成されます。こうして、オキサロ酢酸が再生され、次のアセチルCoAと結合して新たなサイクルが始まります。

この「オキサロ酢酸の再生」こそが、TCAサイクルが「サイクル(循環)」である理由です。オキサロ酢酸は消費されず、何度も再利用されます。まるで「触媒」のように、自分自身は変化せずに反応を進めるのです。

TCAサイクル1回転のまとめ

段階 反応 生成物 補酵素
1 アセチルCoA + オキサロ酢酸 → クエン酸 CoA
2 クエン酸 → イソクエン酸
3 イソクエン酸 → α-ケトグルタル酸 NADH、CO₂ NAD⁺
4 α-ケトグルタル酸 → スクシニルCoA NADH、CO₂ NAD⁺、CoA、TPP
5 スクシニルCoA → コハク酸 GTP(ATP) CoA
6 コハク酸 → フマル酸 FADH₂ FAD
7 フマル酸 → L-リンゴ酸
8 L-リンゴ酸 → オキサロ酢酸 NADH NAD⁺

1回転の合計

  • NADH:3分子
  • FADH₂:1分子
  • GTP(ATP):1分子
  • CO₂:2分子

つまり、アセチルCoA 1分子(2炭素)がTCAサイクルを1回転すると、2つの炭素はすべてCO₂として放出され、エネルギーを持つ分子(NADH 3個、FADH₂ 1個、ATP 1個)が生成されます。

TCAサイクルから生まれるエネルギー

電子伝達系との連携

TCAサイクルで生成されたNADHとFADH₂は、そのままではエネルギーとして使えません。これらは、ミトコンドリアの内膜にある「電子伝達系」に電子を渡すことで、大量のATPを生成します。

電子伝達系では、以下のようにATPが生成されます。

  • NADH 1分子 → 約2.5分子のATP
  • FADH₂ 1分子 → 約1.5分子のATP

TCAサイクル1回転で生成されるATPの合計:

  • NADH 3分子 × 2.5 = 7.5 ATP
  • FADH₂ 1分子 × 1.5 = 1.5 ATP
  • GTP(ATP) 1分子 = 1 ATP
  • 合計:約10 ATP

グルコース1分子からのATP生成量

グルコース1分子は、解糖系で2分子のピルビン酸に分解され、さらに2分子のアセチルCoAに変換されます。つまり、グルコース1分子でTCAサイクルが2回転します。

段階 ATP生成量
解糖系 2 ATP + 2 NADH(→ 5 ATP)= 7 ATP
ピルビン酸 → アセチルCoA(2回) 2 NADH(→ 5 ATP)
TCAサイクル(2回転) 2 × 10 ATP = 20 ATP
合計 約32 ATP

つまり、グルコース1分子から約32個のATPが生成され、そのうち約20個(62%)がTCAサイクルから生まれます。TCAサイクルがエネルギー代謝の「主役」であることがわかります。

脂肪酸からのATP生成量

脂肪酸は、炭素数が多いため、さらに多くのATPを生成できます。例えば、パルミチン酸(炭素数16)は、β酸化で8分子のアセチルCoAに変換されます。

パルミチン酸1分子からのATP生成量:

  • β酸化:7回 × 5 ATP(FADH₂とNADH)= 35 ATP
  • TCAサイクル:8回転 × 10 ATP = 80 ATP
  • 合計:約115 ATP

グルコース1分子(約32 ATP)と比べると、脂肪酸は約3.6倍もエネルギー効率が高いのです。これが、脂質が「高エネルギー栄養素」と呼ばれる理由です。

TCAサイクルに必要な栄養素

ビタミンB群の重要性

TCAサイクルの各段階では、多くの酵素が働いており、これらの酵素は「補酵素」という助手なしには機能しません。ビタミンB群は、この補酵素の材料となる重要な栄養素です。

ビタミン 補酵素 TCAサイクルでの役割 不足すると
ビタミンB1(チアミン) TPP α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼの補酵素 サイクルが停滞、疲労感、脚気
ビタミンB2(リボフラビン) FAD コハク酸デヒドロゲナーゼの補酵素 サイクルが停滞、皮膚炎、口内炎
ビタミンB3(ナイアシン) NAD⁺ イソクエン酸・α-ケトグルタル酸・リンゴ酸デヒドロゲナーゼの補酵素 サイクルが停滞、疲労感、ペラグラ
ビタミンB5(パントテン酸) CoA アセチルCoAの構成成分 サイクルが開始できない、疲労感

つまり、ビタミンB1、B2、B3、B5のいずれか1つでも不足すると、TCAサイクルの「生産ライン」が停滞し、エネルギー産生が低下します。これが、ビタミンB群不足で疲労感が強くなる理由です。

ミネラルの役割

TCAサイクルの酵素は、ミネラルも必要とします。

  • マグネシウム(Mg²⁺):イソクエン酸デヒドロゲナーゼ、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼの活性化に必要。マグネシウムが不足すると、これらの酵素が働けず、TCAサイクルが停滞します
  • 鉄(Fe²⁺、Fe³⁺):コハク酸デヒドロゲナーゼに含まれる鉄-硫黄クラスターの構成成分。電子伝達にも必須
  • カルシウム(Ca²⁺):イソクエン酸デヒドロゲナーゼやα-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼの活性化に関与

日本人の食事摂取基準(2025年版)では、成人男性のマグネシウム推奨量は340-370mg/日、成人女性は270-290mg/日です。マグネシウムが豊富な食材は、玄米、納豆、ナッツ類、海藻などです。

クエン酸の摂取

クエン酸は、TCAサイクルの最初の中間産物ですが、食品からも摂取できます。クエン酸が豊富な食品は、柑橘類(レモン、オレンジ、グレープフルーツ)、梅干し、黒酢などです。

クエン酸を直接摂取すると、TCAサイクルが活性化されるという説もありますが、実際には食品から摂取したクエン酸のほとんどは小腸で吸収され、エネルギー源として代謝されます。ただし、クエン酸には疲労物質である乳酸の代謝を促進する効果があるため、疲労回復に役立つ可能性があります。

TCAサイクルの調節メカニズム

エネルギー状態による調節

TCAサイクルは、細胞のエネルギー状態に応じて活性が調節されます。これは、まるで「自動運転システム」のようなもので、エネルギーが十分なときはサイクルを遅くし、不足しているときは加速します。

ATP/ADP比による調節

  • ATP濃度が高い(エネルギーが十分)→ クエン酸合成酵素、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼが阻害される → サイクルが遅くなる
  • ADP濃度が高い(エネルギーが不足)→ これらの酵素が活性化される → サイクルが加速する

NADH/NAD⁺比による調節

  • NADH濃度が高い → イソクエン酸デヒドロゲナーゼ、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼが阻害される → サイクルが遅くなる
  • NAD⁺濃度が高い → これらの酵素が活性化される → サイクルが加速する

カルシウムによる調節

カルシウムイオン(Ca²⁺)は、TCAサイクルを活性化します。筋肉が収縮するとき、細胞内のカルシウム濃度が上昇し、これがTCAサイクルの酵素を活性化します。つまり、「エネルギーが必要なときに、自動的に生産が増える」仕組みになっているのです。

ホルモンによる調節

インスリン、甲状腺ホルモン、成長ホルモンなどは、TCAサイクルの酵素の発現を増やし、サイクルを活性化します。逆に、コルチゾール(ストレスホルモン)は、長期的にはTCAサイクルを抑制する可能性があります。

TCAサイクルを活性化する食事法

ビタミンB群を豊富に摂る

TCAサイクルを最大限に活性化するには、ビタミンB群を十分に摂取することが最も重要です。

ビタミン 豊富な食材 推奨摂取量(成人)
ビタミンB1 豚肉、玄米、納豆、ナッツ 男性1.4mg/日、女性1.1mg/日
ビタミンB2 レバー、卵、納豆、乳製品 男性1.6mg/日、女性1.2mg/日
ビタミンB3 鶏肉、魚、ピーナッツ、きのこ 男性15mg NE/日、女性11mg NE/日
ビタミンB5 レバー、納豆、アボカド、きのこ 5-6mg/日(目安量)

ビタミンB群は水溶性なので、体内に貯蔵できません。毎日コンスタントに摂取することが重要です。

マグネシウムを摂る

マグネシウムは、TCAサイクルの複数の酵素に必要なミネラルです。マグネシウムが豊富な食材は以下の通りです。

  • 玄米:白米の約5倍のマグネシウムを含む(玄米100gで110mg)
  • 納豆:1パック(50g)で50mg
  • アーモンド:20粒(20g)で60mg
  • わかめ:乾燥わかめ10gで110mg
  • ほうれん草:1束(200g)で138mg

推奨摂取量は、成人男性340-370mg/日、成人女性270-290mg/日です。

適度な運動

有酸素運動(ジョギング、水泳、サイクリング)を続けると、ミトコンドリアの数が増え、TCAサイクルの酵素の活性も高まります。これにより、エネルギー産生能力が向上し、疲れにくくなります。

週3-4回、30分以上の有酸素運動を続けることで、数週間でミトコンドリアの数が増加し始めます。

十分な睡眠

睡眠中に、ミトコンドリアの修復と再生が行われます。慢性的な睡眠不足は、ミトコンドリアの機能を低下させ、TCAサイクルの効率を下げます。1日7-8時間の睡眠を確保することが重要です。

抗酸化物質を摂る

TCAサイクルと電子伝達系では、活性酸素が副産物として生成されます。活性酸素が過剰になると、ミトコンドリアが損傷し、TCAサイクルの効率が低下します。

抗酸化物質(ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノール、カロテノイド)を摂取することで、活性酸素を中和し、ミトコンドリアを保護できます。抗酸化物質が豊富な食材は、野菜、果物、ナッツ、緑茶などです。

よくある質問

TCAサイクルはどこで働いていますか?

TCAサイクルは、ミトコンドリアのマトリックス(内膜の内側の空間)で働いています。マトリックスには、TCAサイクルに必要な8つの酵素がすべて存在します。ただし、コハク酸デヒドロゲナーゼだけは、ミトコンドリアの内膜に埋め込まれています。

TCAサイクルが止まるとどうなりますか?

TCAサイクルが完全に止まると、細胞はATPを十分に生成できず、数分以内に機能を失います。実際には完全に止まることは稀ですが、ビタミンB群やマグネシウムの不足でサイクルが停滞すると、慢性的な疲労感、筋力低下、集中力低下などが起こります。重度のビタミンB1不足では、脚気という病気が発症します。

TCAサイクルでなぜCO₂が出るのですか?

TCAサイクルでは、アセチルCoA(2炭素)が完全に酸化されてCO₂になります。炭素原子は酸素と結合してCO₂として放出され、残った水素は電子伝達系でATP生成に使われます。私たちが吐く息に含まれるCO₂は、主にこのTCAサイクルから生まれたものです。

運動するとTCAサイクルはどうなりますか?

運動すると、筋肉細胞のエネルギー需要が急増し、TCAサイクルの回転速度が上がります。ADP濃度とカルシウム濃度が上昇し、サイクルの酵素が活性化されます。また、有酸素運動を継続すると、ミトコンドリアの数が増え、TCAサイクルの酵素の量も増加します。これにより、エネルギー産生能力が向上し、疲れにくくなります。

断食や糖質制限をするとTCAサイクルはどうなりますか?

糖質が不足すると、体は脂肪酸をβ酸化してアセチルCoAを作り、TCAサイクルに供給します。また、アミノ酸からもTCAサイクルの中間産物を作ることができます。つまり、糖質が不足しても、TCAサイクルは脂質やタンパク質を使って回り続けます。ただし、長期的な糖質制限では、オキサロ酢酸(TCAサイクルの出発物質)が不足する可能性があるため、適度な糖質摂取が推奨されます。

まとめ

TCAサイクルは、ミトコンドリアのマトリックスで24時間休まず回り続ける「エネルギー工場」です。糖質、脂質、タンパク質のすべては、最終的にアセチルCoAに変換され、TCAサイクルに入ります。サイクルは8段階の酵素反応で構成され、1回転でアセチルCoA(2炭素)が完全に酸化され、2分子のCO₂が放出され、3分子のNADH、1分子のFADH₂、1分子のATP(GTP)が生成されます。これらのNADHとFADH₂が電子伝達系で約10分子のATPを生成するため、TCAサイクル1回転で合計約10個のATPが得られます。

TCAサイクルの各段階では、ビタミンB1(TPP)、B2(FAD)、B3(NAD⁺)、B5(CoA)から作られる補酵素が不可欠です。また、マグネシウムや鉄などのミネラルも必要です。これらの栄養素が1つでも不足すると、TCAサイクルが停滞し、エネルギー産生が低下して慢性的な疲労につながります。豚肉、玄米、納豆、卵、レバー、ナッツ、海藻などビタミンB群とマグネシウムが豊富な食材を毎日摂取し、週3-4回の有酸素運動、1日7-8時間の睡眠、抗酸化物質の摂取を組み合わせることで、TCAサイクルを最大限に活性化し、疲れにくく活力ある体を作ることができます。

次に読むと理解が深まる記事

参考文献

  1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2025年版)
  2. ハーパー・生化学 原書30版. 丸善出版
  3. レーニンジャーの新生化学 第7版. 廣川書店
  4. 細胞の分子生物学 第6版. ニュートンプレス
水流琴音(つることね)

管理栄養士|分子栄養学と料理を理論から実践に落とし込んだおうちごはんが得意。栄養のいろはを詰めこんだ理系のごはん作りが好き。

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