ビタミンB1(チアミン)とは?|糖質代謝のはたらきを紐解く

ビタミンB1(チアミン)とは

ビタミンB1(チアミン)は、糖質をエネルギーに変換する際に必須の水溶性ビタミンです。体内で活性型であるTPP(チアミンピロリン酸)に変換され、ピルビン酸脱水素酵素やα-ケトグルタル酸脱水素酵素の補酵素として機能します。糖質を主食とする日本人にとって、ビタミンB1は生命活動の根幹を支える栄養素です。エネルギー代謝だけでなく、神経伝達物質の合成にも関与し、脳と神経系の正常な機能維持に不可欠です。欠乏すると脚気やウェルニッケ脳症など重篤な疾患を引き起こします。

この記事では、チアミンの分子構造とTPPへの変換メカニズム、糖質代謝とTCAサイクルにおける具体的な役割、脚気と神経障害が起きる生化学的メカニズム、そして豚肉・玄米からの効率的な摂取法と調理時の注意点について解説します。


化学構造と形態

分子構造

ビタミンB1(チアミン)の化学式はC₁₂H₁₇N₄OS⁺(チアミン塩酸塩)で、分子量は337.27 g/molです。特徴的な構造として、硫黄と窒素を含む5員環のチアゾール環(thiazole ring)と、窒素を含む6員環のピリミジン環(pyrimidine ring)が、メチレン基で連結された2つの環構造を持ちます。

チアゾール環のC2位は電子が欠乏しており、高い反応性を持ちます。この部分がカルボニル基(C=O)を攻撃し、補酵素としての触媒活性を発揮します。つまり、糖質の分解反応でカルボキシ基(-COOH)を切り離す役割を果たすのです。簡単に言えば、この特殊な構造が「化学反応のハサミ」として機能し、糖質からエネルギーを取り出す鍵となっています。

体内での形態

食品中のビタミンB1は、遊離型チアミン(約30%)、タンパク質結合型チアミン(約50%)、リン酸エステル型のTMP(一リン酸)、TDP(二リン酸)、TTP(三リン酸)(約20%)という3つの形態で存在します。

吸収後の形態変換は以下の段階を経ます。まず、食品中のリン酸エステル型は消化管でホスファターゼにより脱リン酸化されます。次に、遊離型チアミンが空腸上皮細胞で吸収されます。そして細胞内で、チアミン二リン酸キナーゼという酵素により、ATPとMg²⁺を補因子として**TPP(チアミンピロリン酸)**に変換されます。この反応式は「チアミン + ATP → TPP + AMP」で表され、最終的にTPPが補酵素として機能します。

化学的性質

ビタミンB1は水溶性ビタミンで親水性が高く、アルコールに可溶ですが脂質には不溶です。

安定性については、100℃以上で分解が加速し、特にアルカリ性環境で熱に弱い性質があります。pH依存性としては、酸性(pH 3-5)で安定ですが、アルカリ性(pH 7以上)で急速に分解します。

調理での損失については、水に溶け出しやすく、茹で汁に30-50%が流出します。特に重曹を使った調理(アルカリ性)では80%以上が失われる可能性があるため注意が必要です。


消化・吸収・代謝

消化過程

食品から摂取したビタミンB1は、まず消化過程で遊離型に変換されます。タンパク質結合型チアミンは、胃酸と消化酵素(ペプシン、トリプシン)により遊離されます。リン酸エステル型は、小腸粘膜のアルカリホスファターゼにより脱リン酸化されます。最終的に遊離型チアミンとして吸収される形になります。

吸収メカニズム

ビタミンB1の吸収部位は主に**空腸上部(jejunum)**で、一部は十二指腸でも吸収されます。

吸収率は摂取量により変動します。通常の食事摂取量(1-5 mg)では約**50-70%が吸収されますが、高用量(50 mg以上)では吸収率が5-10%**に低下する飽和現象が起きます。

吸収に影響する因子として、促進因子には葉酸とビタミンB12があります。一方、阻害因子にはアルコール(腸管吸収とTPP合成を阻害)、チアミナーゼ(生の魚・貝類に含まれる酵素でチアミンを分解)、タンニン(お茶、コーヒーがチアミンと結合)、亜硫酸塩(保存料)があります。

体内輸送と分布

血中輸送では、遊離型チアミンとして血漿中を輸送されます。血中濃度は0.5-2.0 μg/dLです。

組織分布は、骨格筋に体内総チアミンの50%、心臓に15%、肝臓に10%、脳・神経に5%、腎臓に3%が分布します。

細胞内ではミトコンドリア(70%)でTCAサイクルとピルビン酸脱水素酵素複合体に、細胞質(30%)でペントースリン酸経路とトランスケトラーゼに存在します。

貯蔵と代謝

体内貯蔵量は総量約25-30 mgで、半減期は9-18日です。貯蔵能力が低く、毎日の摂取が必要です。

排泄経路は主に尿中排泄で、過剰分は速やかに排泄されます。摂取後2-4時間でピークに達し、24時間以内に大部分が排泄されます。


生化学的機能

糖質代謝(ピルビン酸の脱炭酸)

TPPは、解糖系の最終産物であるピルビン酸(pyruvate)をミトコンドリア内でアセチルCoAに変換する反応で、ピルビン酸脱水素酵素複合体の必須補酵素として機能します。

反応式は以下の通りです。

ピルビン酸 + CoA + NAD⁺ → アセチルCoA + CO₂ + NADH + H⁺

分子レベルのメカニズムは4段階です。まず、TPPのチアゾール環C2位がピルビン酸のカルボニル基を攻撃します。次にCO₂が遊離する脱炭酸反応が起こります。そしてヒドロキシエチル基がTPPに結合し、最後にリポ酸とCoAに転移してアセチルCoAが生成されます。

この反応は好気的代謝の入り口であり、糖質から得たエネルギーをTCAサイクルに送り込むゲートです。TPPが不足すると、ピルビン酸が蓄積し、乳酸に変換されます(乳酸アシドーシス)。これが疲労や筋肉痛の原因となります。

TCAサイクルの維持

TCAサイクル内で、α-ケトグルタル酸スクシニルCoAに変換する際にも、α-ケトグルタル酸脱水素酵素複合体の補酵素としてTPPが必須です。

反応式は以下の通りです。

α-ケトグルタル酸 + CoA + NAD⁺ → スクシニルCoA + CO₂ + NADH + H⁺

この反応がないとTCAサイクルが回らず、ATP産生が著しく低下します。1分子のグルコースから本来得られる38 ATPが、TPP欠乏時には2 ATP(解糖系のみ)まで激減します。これがビタミンB1欠乏時の極度の疲労感の原因です。簡単に言えば、エネルギー効率が19分の1になってしまうということです。

ペントースリン酸経路

TPPは細胞質で**トランスケトラーゼ(transketolase)**の補酵素として、ペントースリン酸経路を進行させます。

この反応では、五炭糖の相互変換を触媒し、核酸合成に必要なリボース-5-リン酸と、還元力を持つNADPHを生成します。

生理的意義は3つあります。核酸合成ではDNA・RNAの材料となるリボースを供給します。抗酸化作用では、NADPHがグルタチオンの還元に使用され、活性酸素の除去に貢献します。脂肪酸合成では、NADPHが必要となります。

神経機能の維持

TPPは神経伝達物質であるアセチルコリンの合成にも間接的に関与します(アセチルCoAが材料)。

脳と神経組織はグルコースをほぼ唯一のエネルギー源とするため、TPPによる糖質代謝が特に重要です。神経線維を覆う髄鞘(ミエリン鞘)の脂質合成にも、TPP依存的なエネルギー代謝が必要です。

ビタミンB1欠乏により、末梢神経炎(しびれ、感覚異常)やウェルニッケ脳症(眼球運動障害、運動失調、意識障害)が発症します。


欠乏症と過剰症

欠乏症

ビタミンB1欠乏症の主な症状は以下の通りです。

**脚気(beriberi)**はビタミンB1欠乏症の代表的疾患です。**心臓型(wet beriberi)**では、心不全、浮腫、息切れ、動悸が起こります。**神経型(dry beriberi)**では、末梢神経炎、しびれ、筋力低下、知覚異常が見られます。

**ウェルニッケ脳症(Wernicke’s encephalopathy)**では、眼球運動障害、運動失調、意識障害が起こります。コルサコフ症候群では、記憶障害、作話、見当識障害が現れます。

全身症状としては、疲労感、食欲不振、体重減少、イライラ、集中力低下があります。

なぜその症状が起きるのか

TPP不足により、ピルビン酸脱水素酵素とα-ケトグルタル酸脱水素酵素が機能しません。その結果:

エネルギー不足:ATP産生が激減します(38 ATP → 2 ATP)。これは車のエンジンが19分の1の出力しか出せなくなるようなものです。

ピルビン酸と乳酸の蓄積:ピルビン酸がアセチルCoAに変換されず、乳酸に還元されます。これが疲労物質として体内に溜まります。

神経障害:神経細胞は糖質依存度が高いため、エネルギー不足で最も早く障害されます。

心不全:心筋のエネルギー不足により収縮力が低下します。

血管拡張と浮腫:末梢血管が拡張し、組織に水分が貯留します。

特にアルコール依存症の患者では、アルコールが腸管でのチアミン吸収を阻害し、さらに肝臓でのTPP合成を妨げるため、ウェルニッケ脳症のリスクが極めて高くなります。

欠乏のリスク因子

  • アルコール多飲
  • 精製穀物中心の食事(白米、白パン)
  • 高糖質食
  • 慢性下痢・吸収不良
  • 妊娠・授乳
  • 透析患者
  • 利尿薬の長期使用
  • 高齢者

過剰症

ビタミンB1は水溶性のため通常は過剰症はありません。過剰に摂取しても、腸管での吸収に上限があり、過剰分は速やかに尿中に排泄されます。そのため、耐容上限量は設定されていません


必要量と補給

推奨摂取量

日本人の食事摂取基準(2025年版)による推奨量は以下の通りです。

対象 推奨量(mg/日)
成人男性(18-64歳) 1.4
成人男性(65-74歳) 1.3
成人男性(75歳以上) 1.2
成人女性(18-64歳) 1.1
成人女性(65-74歳) 1.1
成人女性(75歳以上) 0.9
妊婦(付加量) +0.2
授乳婦(付加量) +0.2

需要が増加する状況

  • 高糖質食を摂る人
  • アスリート・激しい運動
  • 妊娠・授乳期
  • 感染症・発熱
  • ストレス
  • アルコール多飲
  • 高齢者

サプリメント

サプリメントの形態には以下の種類があります。

**チアミン塩酸塩(thiamine hydrochloride)**は最も一般的で水溶性です。**チアミン硝酸塩(thiamine mononitrate)**は安定性が高いタイプです。**ベンフォチアミン(benfotiamine)**は脂溶性誘導体で吸収率が高く、約5倍の生体利用率があります。**アリチアミン(allithiamine)**はにんにく由来成分と結合し、持続性があります。

推奨摂取量は、予防的補給で5-10 mg/日、欠乏症の治療では50-100 mg/日(医師の指導下)です。

注意点として、食事と一緒に摂取すると吸収率が向上します。ビタミンB群は相互に作用するため、複合体(Bコンプレックス)での摂取が理想的です。


食品源

主な食品源

日本食品標準成分表2020年版(八訂)に基づく、ビタミンB1を豊富に含む食品は以下の通りです。

食品名 含有量(100gあたり) 1日必要量に対する割合(男性1.4mg基準)
豚ヒレ肉 1.32 mg 94%
豚モモ肉 0.96 mg 69%
豚ロース肉 0.80 mg 57%
玄米(炊飯前) 0.41 mg 29%
玄米ごはん(炊飯後) 0.16 mg 11%
大豆(乾燥) 0.83 mg 59%
納豆 0.07 mg 5%
きな粉 0.76 mg 54%
落花生 0.85 mg 61%
ごま 0.95 mg 68%
たらこ 0.71 mg 51%
うなぎ蒲焼 0.75 mg 54%

効率的な摂取のポイント

食品の選び方では、豚肉を週3-4回食べることで、100gの豚ヒレ肉でほぼ1日分を確保できます。主食を玄米や胚芽米にすることで、白米に比べて3-5倍のビタミンB1を摂取できます。大豆製品を毎日食べることで、納豆、豆腐、きな粉など多様に摂取しましょう。

調理のポイントとして、水に溶け出しやすいため、茹で汁も利用します(スープ、煮汁)。短時間加熱(炒め物、蒸し物)で損失を最小化できます。重曹や炭酸水素ナトリウムは使わないようにしましょう(アルカリ性で分解するため)。

吸収を高める食べ合わせでは、にんにくやねぎに含まれるアリシンがチアミンと結合し、アリチアミンとなり吸収率が向上します。ビタミンB群の同時摂取で相乗効果が得られます。

より詳しい調理法は、「調理036 – 豚肉の調理:ビタミンB1を守る方法」で具体的なレシピと調理科学を解説しています。


他の栄養素との相互作用

協調する栄養素

**ビタミンB2(リボフラビン)**との関係では、ビタミンB2がチアミンからTPPへの変換に必要な酵素の補酵素FADとして機能します。B2が不足すると、B1を摂取してもTPPに変換されず、活性型にならないため、両者は協働して作用します。

**ビタミンB3(ナイアシン)**との関係では、TPPが関与するピルビン酸脱水素酵素とα-ケトグルタル酸脱水素酵素は、NAD⁺(ナイアシンから合成)も補酵素として必要とします。つまり、B1とB3が同時に存在して初めて、これらの酵素が機能します。

**マグネシウム(Mg²⁺)**との関係では、チアミンキナーゼ(TPP合成酵素)がマグネシウムを補因子として必要とします。マグネシウム欠乏時には、ビタミンB1を摂取してもTPPに変換されにくくなります。

拮抗・阻害する因子

**アルコール(エタノール)**は、腸管でのチアミン吸収を直接阻害し、肝臓でのTPP合成酵素を阻害し、尿中排泄を促進します。慢性的なアルコール摂取は、ビタミンB1欠乏の最大のリスク因子です。

**チアミナーゼ(酵素)**は、生の魚(鯉、鰻、ハマグリ、シジミなど)や貝類に含まれる酵素で、チアミンを分解します。加熱すると不活性化されるため、これらの食材は必ず加熱調理してください。

**タンニン(お茶、コーヒー)**は、チアミンと結合し、吸収を阻害します。食後すぐに濃いお茶やコーヒーを飲むのは避けましょう。

**亜硫酸塩(保存料)**は、ワインやドライフルーツに使用される亜硫酸塩がチアミンを不活性化します。


まとめ

ビタミンB1(チアミン)はTPPとして、糖質代謝の中心的な補酵素です。ピルビン酸脱水素酵素とα-ケトグルタル酸脱水素酵素の働きを支え、ATP産生に不可欠です。この栄養素がなければ、食べた糖質を効率的にエネルギーに変換できません。

欠乏すると脚気、ウェルニッケ脳症、末梢神経炎など重篤な疾患を引き起こします。アルコール多飲、精製穀物中心の食事がリスク因子です。

豚肉、玄米、大豆から1日1.1-1.4mgの摂取を目指しましょう。水溶性で加熱に弱いため、調理法に注意が必要です。

週に3-4回、豚肉100gを食べることで、ほぼ1日分のビタミンB1を確保できます。主食を玄米や胚芽米に変えるだけでも、摂取量は大幅に増加します。アルコールを控え、にんにくやねぎと一緒に食べることで、吸収率を高めましょう。


よくある質問(FAQ)

Q1. ビタミンB1の1日の必要量は?

成人男性で1.4mg/日、成人女性で1.1mg/日です。豚ヒレ肉100gでほぼ1日分を摂取できます。

Q2. ビタミンB1が不足するとどうなりますか?

脚気(心不全、浮腫)、末梢神経炎(しびれ、感覚異常)、ウェルニッケ脳症(意識障害、眼球運動障害)を引き起こします。疲労感も強まります。

Q3. ビタミンB1を多く含む食品は?

豚肉(特にヒレ肉)、玄米、大豆、ナッツ類、ごま、たらこ、うなぎなどに豊富です。白米よりも玄米が3-5倍多く含みます。

Q4. ビタミンB1はサプリで摂るべきですか?

通常の食事で十分摂取可能ですが、アルコール多飲者、高齢者、透析患者はサプリメント(5-10mg/日)での補給が有効です。

Q5. ビタミンB1は調理で失われますか?

水溶性で熱に弱いため、茹でると30-50%が流出します。炒め物や蒸し物で短時間加熱すると損失を最小化できます。重曹は使わないでください。


次に読むべき記事

分子栄養学で理解を深める

  • 分子003 – 酵素と補酵素の働き: TPPが補酵素として機能する仕組みを詳しく解説
  • 分子027 – TCAサイクルとエネルギー: TPPがα-ケトグルタル酸脱水素酵素でどう働くかを解説
  • 分子071 – ビタミンB2(リボフラビン): B1と協働するB2の役割を学ぶ

調理科学で実践する

  • 調理036 – 豚肉の調理:ビタミンB1を守る方法: 豚肉調理で栄養を逃がさないテクニック
  • 調理065 – 疲労回復のための食事: ビタミンB1を活かしたエネルギー代謝最適化レシピ

参考文献

  1. 日本人の食事摂取基準(2025年版)- 厚生労働省
  2. 日本食品標準成分表2020年版(八訂)- 文部科学省
  3. ハーパー・生化学 原書30版 – 丸善出版
  4. カラーアトラス栄養学 第8版 – ガイアブックス
  5. Orthomolecular Medicine for Everyone – Abram Hoffer & Andrew W. Saul
  6. Molecular Nutrition & Nutrigenomics – Martin Kohlmeier
水流琴音(つることね)

管理栄養士|分子栄養学と料理を理論から実践に落とし込んだおうちごはんが得意。栄養のいろはを詰めこんだ理系のごはん作りが好き。

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